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外国人が居酒屋へ行くときの基礎知識②

外国人が居酒屋へ行くときの基礎知識②

 

目次

1、居酒屋は日本の食文化

2、日本語しかメニューがない場合

3、「お通し」、「付け出し」問題

4、値段が書いてない場合の対処法

5、魚介類に合う日本酒

 

3、「お通し」、「突き出し」問題

数年前に日本でかなり話題になりましたが、日本の居酒屋に行く際に問題となるのは「お通し」、「突き出し」です。「お通し」は主に東日本で、「突き出し」は主に西日本での呼び名で、ともに客の注文とは無関係に出す小料理のことを言います。特に、「お通し」、「突き出し」のシステムを知らない外国人の不満が大きいようです。

しかも、アルコール類を注文した客には「お通し」、「突き出し」を出す一方、アルコール類を注文しない客には「お通し」、「突き出し」を出さない居酒屋も多いので、より理解しにくいシステムと言えるでしょう。

お通し

私は「お通し」、「突き出し」問題の背景には以下の3つの問題が含まれていると思います。①注文していないのに勝手に料理を出して料金を徴収するのは契約違反、②料金を徴収する割にはおいしくない、③アレルギーや宗教上食べられないものが出てくる。これらの問題を全て解決するには「お通し」、「突き出し」を廃止するしかないと思います。しかし、居酒屋側が廃止したくないのであれば「お通し」、「突き出し」の出し方を工夫する必要があると思います。それぞれの問題点について私の意見を述べたいと思います。

①注文していないのに勝手に料理を出して料金を徴収するのは契約違反

「注文していないのに勝手に料理を出して料金を徴収する」点は厳格な契約社会である国から訪日した外国人にとっては許しがたいことであると思います。これは「郷に入れば郷に従え」ということで日本のやり方に無理やり従ってもらうか、「お通し」、「突き出し」を無くすしかありません。「お通し」、「突き出し」を出し続けるのであれば、メニューに「お通し」、「突き出し」の料金を書くだけではなく、口頭で事前確認をするべきでしょう。

姫路寿司お通し

居酒屋が「お通し」、「突き出し」の料金を徴収することで経営を成り立たせているのであれば、「お通し」、「突き出し」を廃止する代わりに、料理や飲料の値段を上げてもいいと思います。そもそも日本の居酒屋の料金は安いので、「お通し」、「突き出し」を廃止し、メニュー全体の値段を少しずつ値上げしてもほとんどの客は文句を言うことはないと思います。特に、日本の物価の安さに驚愕している外国人は少々の値上げに対しては全く文句を言わないでしょう。

注文していないのに勝手に料理を出して料金を徴収するから契約違反として文句を言うのです。私は①の問題に対しては、「お通し」、「突き出し」を廃止する代わりに、料理や飲料の値段を上げることが解決策だと思います。

お通し

客の立場からすると居酒屋が「お通し」、「突き出し」を無料で提供して、料理や飲料の値段を上げるのは非常に有効かと思います。やはり、無料で提供されて怒る客はいません。また、入店直後に無料の「お通し」、「突き出し」が出てくると居酒屋に対して好印象を抱きます。

心理学的には「初頭効果(primacy effect)」と「新近効果(recency effect)」に注目すべきです。第一印象である「初頭効果(primacy effect)」と最後の印象である「新近効果(recency effect)」で物事に対する印象が決まると言われています。つまり、最初に無料で「お通し」、「突き出し」を出すことで第一印象である「初頭効果(primacy effect)」を上げ、最後の会計時に「お通し」、「突き出し」料金は無料とレシートに書くことで最後の印象である「新近効果(recency effect)」を上げる効果が期待できます。

フランス料理では「お通し」、「突き出し」に似たものとして、「アミューズ (Amuse)」が登場することがあります。「アミューズ (Amuse)」は無料で提供されることが多いです。意図しているかどうかは別にして無料で「アミューズ (Amuse)」を提供するフランス料理店では先述の「初頭効果(primacy effect)」を狙ったものだと考えられます。もちろん、無料で提供していても「アミューズ (Amuse)」の料金は他の料理や飲料の値段で回収しているはずです。

アミューズ (Amuse)

なお、日本料理のコースには居酒屋の「お通し」、「突き出し」に似たものとして「先付け」があります。これはコース料理に含まれるものなので、「先付け」だけの料金を取られるわけではありません。「アミューズ (Amuse)」はこの日本料理の「先付け」に影響を受け、1970年代に生まれたと言われています。「先付け」はコース料理の料金に含まれるものなので、日本でも「先付け」に対して文句を言う客はいません。従って、「先付け」や「アミューズ (Amuse)」の成功例を居酒屋が見習うならば、「お通し」、「突き出し」を無料で提供して、料理や飲料の値段を上げるということは経営戦略上非常に有効だということが言えると思います。

②料金を徴収する割にはおいしくない

「お通し」、「突き出し」の料金を徴収する割にはおいしくないという点も客の大きな不満だと思います。「お通し」、「突き出し」の内容にこだわった優良店も存在しますが、チェーン店を中心に手抜きした「お通し」、「突き出し」を提供する店も多いというのが私の印象です。特に、悪徳商売の居酒屋は手抜きした「お通し」、「突き出し」に高額な料金を請求することがあり問題になっています。

私は地方に旅行し、地元の居酒屋に入店した際にその店の「お通し」に閉口したことがありました。店主に「うちのお通しは自慢だよ」と言われて、つまみ5種類が盛られた「お通し」が出されました。確かに、内容は悪くはないのですが、値段を聞くと通常、200円~500円程度の「お通し」料金を大きく上回る800円とのことでした。800円の料理と考えれば特に割安感はないため、自慢することもないのにと思いました。むしろ、自分で好みの料理を注文したかったです。

お通し

一方、別の地方の居酒屋では「お通し」料金が500円かかるものの、刺身が山盛りの「お通し」が出てきて大喜びしたことがあります。当然、この居酒屋は大人気で客は満員でした。刺身山盛りで500円の「お通し」は赤字と推定されますが、先述の「初頭効果(primacy effect)」により、客は居酒屋に好印象を抱き、他の料理や飲料をどんどん注文をしていました。また、驚愕の「お通し」ですので、多くの客が写真を撮影し、SNSに投稿しているようでした。こういう広告効果も狙えます。従って、「お通し」の内容一つで、ネガティブイメージの「お通し」も「ポジティブイメージ」に変えることができるのです。

刺身山盛り

③アレルギーや宗教戒律上食べられないものが出てくる

③の点は「お通し」、「突き出し」を無くすか、内容を選べるようにするかしか選択肢はありません。高級居酒屋や高級寿司屋でも「アレルギーや嫌いなものはありますか」と聞いてくれる店でも、「お通し」、「突き出し」は全ての客向けに同じ食べ物が出てくることがあります。こうしたことは明らかに客の「アレルギーや宗教戒律上食べられないもの」を気にしていない例です。

ハラル

そもそも、「お通し」、「突き出し」を提供する理由を考える必要があると思います。Ⓐ有料の「お通し」、「突き出し」を提供することで利益を計上しようと考えているのか、Ⓑ単に習慣で提供しているのか、Ⓒ客に喜んでもらおうと先述のような大盛りの料理や丹念に作った料理を提供しようとしているのか、で対応は変わります。ⒶとⒷの場合は「お通し」、「突き出し」を無くし、他の料理や飲料を少しずつ値上げすることが必要ですし、Ⓒの場合は客の「アレルギーや宗教上食べられないもの」を考慮して、複数の「お通し」、「突き出し」を用意するべきでしょう。

 

4、値段が書いてない場合の対処法

メニューに値段を書いていない居酒屋がたまにあります。特に、高級居酒屋に比較的メニューに値段を書いていないことが多いようです。これは高級寿司屋にも言えます。

メニューに値段を書いていない理由は、魚介類など仕入れ価格が日々変動するので仕入れ価格に応じてメニューの値段を変えることは大変だ、という理由が主なものと考えられます。また、一部にはあえてメニューに値段を書かずに会計時に不当な高額料金を請求する悪徳商売の店もあります。

いずれにしても、メニューに値段を書いていない理由は居酒屋の都合であり、客のことを考えたものではありません。従って、私はメニューに値段は書くべきだと思います。

それでも、偶然、メニューに値段を書いていない居酒屋に入店してしまった場合にはどうすればいいでしょうか?

メニューに値段を書いていない居酒屋

最適な解決策は食べたい食事の値段を順次聞いていくということです。ですが、この方法は客側も店側もとても面倒です。また、日本語を話せない外国人にとっては不可能な解決方法となります。

「盛り合わせ」、「今日のお勧め」、「おまかせ」で注文

次善策として、「2、日本語しかメニューがない場合」で提案したように、「盛り合わせ」、「今日のお勧め」、「おまかせ」などという形で注文することです。メニューに値段を書いていない居酒屋に入店することは、日本語が読めない外国人が日本語しかメニューにない居酒屋に入店することとほぼ同じです。従って、単品ではなく、「盛り合わせ」、「今日のお勧め」、「おまかせ」で注文してみるのです。

お造り

この方法で注文して、美味しくない店であれば、悪徳商売の店である可能性がありますので、早々に退店したほうがいいでしょう。一方、美味しい店であれば、魚介類に拘りがある優良店である可能性が高いと思います。私の経験から言えば、料理が美味しく、客の入りが盛況であれば、メニューに値段を書いていなくても良心的な店である可能性が高かったです。

 

5、魚介類に合う日本酒

居酒屋に行く場合、食事を食べるとともに、アルコール類を飲むことが主目的の人も多いと思います。もちろん、体質上、宗教上でアルコール類を飲めない人は食事とノンアルコール飲料を楽しむべきですが、ここではアルコール類を飲める人向けに議論をします。

外国人にとって、日本の居酒屋で飲んでみたいアルコール飲料は日本酒が筆頭にあがるでしょう。ただし、日本酒の選び方をよく知らず、高い値段の日本酒は美味しく、安い値段の日本酒は美味しくない、と考え、高い値段の日本酒を頼む人もいます。

日本酒

居酒屋では純米酒を注文する

ここでは、居酒屋での日本酒の頼み方について私見を述べたいと思います。結論から言えば、居酒屋で注文する日本酒の種類は「純米酒」を頼めば、ほとんどすべての料理に合います。特に、魚介類の刺身の場合は最適です。「純米酒」が刺身や寿司に合うということは多くの料理人も認めていることなので、間違いないと思います。居酒屋で「純米酒」と言えば、店員が最適の日本酒を選んでくれるはずです。「純米酒」が無ければ、少し値段が高くなりますが、「純米吟醸酒」、「特別純米酒」も魚介類の刺身など多くの料理によく合います。

では、なぜ「純米酒」が居酒屋料理と合うのでしょうか。それは様々な日本酒の中でも辛口で香りが穏やかだからです。「純米酒」は米、米麹、水だけで造られた日本酒です。そのため、白飯に合う料理全般との相性がいいのです。刺身や焼き鳥、天ぷらなど居酒屋のほとんどの料理が白米とも合うため、「純米酒」とも合うのです。

大吟醸は食前酒

一方、値段が高い日本酒の筆頭格である「純米大吟醸」若しくは「大吟醸」は香りが強いので、食前酒にお勧めです。しかし、香りが強すぎるため、食中酒には適しません。値段の高い「純米大吟醸」を飲んだのに居酒屋や寿司屋の料理と合わなかった、との感想を持つのは料理と合わない日本酒を頼んだからです。日本酒のことをよく知らず、日本酒は料理と合わないと勘違いされるのは残念なことです。居酒屋や寿司屋も日本酒のことをよく知らない外国人に対して「純米大吟醸」は食前酒だけにしておいたほうがいいというアドバイスをしてあげるべきだと思います。

居酒屋料理の代表格である魚介類の刺身、若しくは寿司と醤油と日本酒の組み合わせが素晴らしいのは科学的にも分析されています。

分析

魚介類には「うま味」成分の一つであるイノシン酸を多く含むものが多くあります。例えば、イノシン酸100g中の含有量はイワシが280mg、アジが270-330mg、マグロが250-360mg、サワラが250-280mgなどとなります。一方、肉類では豚肉が130-230mgと多いものの、鶏肉が150-230mg、牛肉が80mgとなります。

醤油との相乗効果

また、醤油にはグルタミン酸が多く含まれます。グルタミン酸100g中の含有量は400-1,700mgにもなります。特に、「うま味」を凝縮させた溜醤油(たまりじょうゆ)や九州地方の甘口醤油のグルタミン酸は1,700mg前後と醤油の中でも最高クラスとなります。

醤油

魚介類のイノシン酸と醤油のグルタミン酸の組み合わせで「うま味」が飛躍的に強く(7-8倍)に感じられます。また、醤油をつけて刺身を食べるのは、味だけでなく醤油に魚介類の生臭みを消す大きな働きがあります。

さらに、日本酒はグルタミン酸などのアミノ酸を含むため、醤油をつけた魚介類を食べて日本酒を飲むとさらに「うま味」が増して美味しく感じるのです。同じ醸造酒のビール、ワインと比べてみると、日本酒のアミノ酸含有率はビールを1とすると、ワインは3、日本酒は8となります。

岩手の地酒

では日本酒の中でも「純米酒」が居酒屋料理の料理に合うのかを科学的に説明すると甘辛度が左右しているためです。甘辛度は日本酒度と総酸(酸度)から算出でき、数値が高いほど甘口、数値が低いほど辛口となります。なお、辛口とは甘くないという意味です。国税庁による計算式は甘辛度=193593/(1443+日本酒度)-1.16×総酸-132.57となります。カシオのWebサイトでは簡単に算出できます。各日本酒の甘辛度平均値は「純米酒」が-0.52に対し、大吟醸酒を含む「吟醸酒」が-0.27、「本醸造酒」が-0.3となります。純米酒の平均値が最も辛口であるため(甘くないために)居酒屋料理の料理の味を邪魔せず、「うま味」の相乗効果をより感じることができます。

ただし、日本酒は辛ければ辛いほどいい(甘辛度が低ければ低いほどいい)というものではありません。甘辛度の計算式には含まれない「アミノ酸度」は一般的に高ければ甘口、低ければ辛口となります。先述のようにアミノ酸は「うま味」やコクを生み出します。しかも、アミノ酸度が高すぎると雑味が多く感じられるようになります。日本酒は非常に微妙なバランスを元に生産されるのです。

石川の地酒

従って、「純米酒」を中心に食中酒を注文して、自分の好みの日本酒が見つかったらその日本酒を覚えておくということしかないでしょう。

地酒の「純米酒」を飲むのがベスト

なお、長崎・福岡旅行編で投稿しましたが、九州の日本酒はとても甘口ですが、九州の居酒屋で食べる食事と甘い日本酒は良く合います。その地方で出される食事に合わせてその地方で作られる日本酒は作られてきたのですから、やはり日本酒も地産地消で地酒を飲むことが一番いいと思います。

長崎の地酒

これらのことを総合的に考えると地酒の「純米酒」を飲むことが一番良いという結論となりました。是非、居酒屋でお試しください。

 

 

 

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