Site Overlay

旅行のバリアフリー化の盲点

旅行のバリアフリー化の盲点

 

目次

1、旅行業界のソーシャルインクルージョン(社会的包摂)に改善余地

2、移動困難者が最も不満に思うことは意外なものだった

3、誰もがいずれ移動困難者になる

4、目に見えるバリアフリー化は進展も、目に見えないバリアが残る

5、みんなで目に見えないバリアを取り除こう

 

1、旅行業界のソーシャルインクルージョン(社会的包摂)に改善余地

8月24日にエクスペディアの「Traveler Value Index(トラベラーバリューインデックス」にあった「環境に優しい旅行」について私たちの意見を投稿しました。

今回は「Traveler Value Index」の「個人の尊重と平等に関する価値観」で65%が平等で差別のない社会を目指すソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を実施している旅行プロバイダーを利用するとの回答について、私たちの意見を述べたいと思います。

日本の厚生労働省のレポートには、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)とは、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念、とあります。

確かに、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)についての理念は多くの人が肯定するものでしょう。しかし、旅行においては、障害者・高齢者など多くの「移動困難者」が存在します。「移動困難者」は旅行をすることが困難なことから「孤独や孤立」を感じている可能性があります。従って、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)は旅行業界において、改善の余地が大いにあります。「目に見える」バリアの除去だけではなく、「目に見えない」バリアに気づき、除去しないと「移動困難者」の「孤独や孤立」は解消しないと私たちは考えています。

 

2、移動困難者が最も不満に思うことは意外なものだった

「移動困難者」について、興味深い論文が出ておりましたので、ご紹介します。「観光困難階層にとってのユニバーサルツーリズム」(著者は秋山哲男氏、大西康弘氏、佐藤貴行氏)という論文です。

この論文によると、障害者・高齢者への「旅行商品に対して最も不満に思うこと」というアンケートで1位が「価格」38%、2位が「ツアー内容の魅力」と「宿泊施設のバリアフリー対応」24%となっています。ハード面への不満よりも上位に来る「価格」への不満は意外ではないでしょうか。

論文によると「価格」に対する不満の理由は、「一般観光に対して移動困難者の料金は2倍程度である」ためです。移動困難者の旅行代金は圧倒的に高いのです。この論文では、秋山氏の障害を持つ母の例が挙げられていますが、「経済的に最も出費が多いのは、リフト付きタクシーの手配と出発地からの付添の人(私と妻)の交通費・宿泊費等である」、とあります。ただ、私の意見では付添の人を2人つけるなら、移動困難者の料金は2倍程度ではなく、3倍になると思います。論文には旅行料金が2倍となる説明はありませんでした。

いずれにせよ、介助者が必要となることなどで、旅行代金が高くなり、それが移動困難者の旅行商品に対する最大の不満になっているのです。

この論文では、介助者を「現地調達型(着地型)」とすることで旅行代金は大きく下がる、と主張されています。旅行の行程全てに介助者を付けるよりも、旅行先でのみ介助者をつける方が旅行代金は安上がりになるということです。確かにその通りでしょう。しかし、介助者の現地調達化は移動困難者が旅行先まで自力で移動せざるを得ないことを意味します。そのため、非移動困難者が運ぶような大きな荷物を自力で運ぶ際にかなりの困難となることが想定されます。国内旅行の場合には自分の荷物を旅行先に送ることができるので問題はありません。しかし、海外旅行の場合、自分の荷物を旅行先に送ることは不可能ではないにしても、現実的とは言えません。

私は海外旅行の場合は自分で運ばざるを得ない大きな荷物の存在が旅行代金を下げるはずの介助者の「現地調達」の実現を困難にさせていると考えています。従って、「人(介助者)」の「現地調達」だけではなく、旅行先で必要な「もの」を現地調達することにより、移動困難者の旅行代金を大きく下げる、ことができ、より多くの移動困難者が旅行を楽しむことができるようになると思います。このことにより、「全ての人がラクに旅行できる世の中を作る」という我々のミッションの実現に近づくことができると考えています

なお、JTBの「旅行年報2020」では一般の人々へのアンケートで海外旅行の阻害要因の3位に「家計の制約がある」(複数回答で24.5%の回答)とあります。移動困難者でなくとも料金に不満があるということは、良く考えれば旅行代金が跳ね上がる移動困難者が高額な旅行代金に不満を持つのも当然かもしれません。

 

3、誰もがいずれ移動困難者になる

現在、私は移動困難者ではありません。人口割合としては多くの旅行好きの方も移動困難者ではないでしょう。ただし、誰もがいずれ高齢者になりますし、不慮の事故によってある日突然、移動困難者になるかもしれません。一人暮らしの高齢者であれば、離れて暮らす家族が介助者となって旅行をするのは困難です。従って、旅行に行くことは家族以外の介助者が必要となるため、前述のように高額の旅行代金を支払わなければなりません。そうなると若いころに旅行が好きだった高齢者は旅行に行ける回数が減ったり、旅行自体に行けなかったりして相当ストレスを抱えるはずです。移動困難者でも高い旅行代金を支払わずに済む旅行環境を作ることは結局、全ての人の役に立つことになると思います。

 

4、目に見えるバリアフリー化は進展も、目に見えないバリアが残る

沖縄県の「観光バリアフリー対応マニュアル」がバリアフリー、ユニバーサルデザインについてとても分かりやすかったので、抜粋させていただきます。

「“バリアフリー”とは、高齢者や障害者等にとって障壁(バリア)となるものを取り除くといった考え方を指しており、“ユニバーサルデザイン”とは、性別や年齢、国籍、障害の有無に限らず、すべての人にとって使いやすいものやサービスを指しています。バリアフリーの基本は、①「バリア」に気づくこと、②「バリア」を取り除く気持ちを持つこと、③実際に「バリア」を取り除くこと、です。とてもシンプルで、誰でも、いつでも、どこでも気軽に実践できます。」

バリアフリーとしては、旅客施設のバリアフリー化が大きく進展しています。国土交通省によりますと鉄軌道駅、バスターミナル、旅客船ターミナル、航空旅客ターミナルにおいて、「視覚障害者誘導用ブロック」「段差の解消」「高齢者障害者等用便房(バリアフリートイレ)」のバリアフリー化がこの20年間で大きく進展しました。特に、「バリアフリートイレ」は、2000年度末にわずか0.1%だったバリアフリー化率が2019年度末には、88.6%へ、「段差の解消」は2000年度末に28.9%だったバリアフリー化率が2019年度末91.9%と大きくバリアフリー化が進んでいます。

ただし、今までの日本社会は階段など「目に見える」バリアに気づき、取り除いてきましたが、今後は「目に見えない」バリアに気づき、取り除いていく必要があるでしょう。そうでなければ、先述の論文にあるように移動困難者の最大の不満である「高額な旅行代金」を解決できません。

繰り返しになりますが、「目に見えない」最大のバリアである高額な旅行代金の引き下げは「人(介助者)」の「現地調達」だけではなく、旅行先で必要な「もの」を現地調達することにより可能となると思います。

移動困難者の最大の不満に気づいてそれを取り除くことが、結局はすべての人にとって使いやすいものやサービスであるユニバーサルデザイン、ユニバーサルトラベルに結び付くのです。

また、以前投稿したように、旅行先で必要な「もの」を現地調達することで、LCCに受託手荷物料金を支払わずに済み旅行代金を安くできる可能性があることと、飛行機に大きな荷物を積まないことは環境負荷を大きく下げることも改めて申し上げたいと思います。

 

5、みんなで目に見えないバリアを取り除こう

令和3年(2021年)版高齢社会白書には2020年に一人暮らしの高齢者(65歳以上)の15.5%が1人暮らしであり、2040年には20.8%になると推計しています。

自分には関係ないことだと思わず、自分が、自分の家族が、移動困難者になった場合のことを考えて、ユニバーサルツーリズム、バリアフリーツーリズムが当たり前である世の中を作ることが大切です。

それが旅行業界でもソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の理念「全ての人々を社会の構成員として、包み支え合う」を実現させるということではないでしょうか。

冒頭で「65%が平等で差別のない社会を目指すソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を実施している旅行プロバイダーを利用する」との調査結果をご紹介しました。利用者(旅行者)のニーズに応えるために、旅行業界一丸となって移動困難者の最大の不満である旅行代金の引き下げに動くべきだと思います。

一方、旅行者も「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を実施している」旅行関連業者を積極的に利用してほしいと思います。ユニバーサルツーリズム、バリアフリーツーリズムが当たり前である世の中は他人任せではできないのです。まず、自らが行動しましょう。

 

 

 

Follow me!

PAGE TOP