第4回:神楽坂商店街の店主に聞く – 花柳界の繊細な季節感と芸者文化の美しさを体感——神楽坂最大の料亭『幸本(ゆきもと)』

神楽坂の伝統と風情を彩る料亭『幸本』
神楽坂商店街インタビューシリーズ第4回は、創業77周年を迎える料亭『幸本(ゆきもと)』の三代目女将、寺田歩(あゆみ)さんにお話を伺いました。
『幸本』は、1948年に寺田さんの祖母によって創業され、戦後いち早く復活した神楽坂花柳界を代表する料亭の一つです。外堀や神田川という水運を活用できる地の利もあり、神楽坂は戦後、他の花街より早くその賑わいを取り戻しました。

現在、『幸本』は東京六花街に数えられる神楽坂で最大規模を誇る料亭として、40名様が利用できる大広間から大小7室の数寄屋造りの部屋を備えています。
「芸者を揚げて宴会をする」という伝統を守り続けてきた『幸本』は、国内外のお客様に日本文化を体験していただける特別な場所です。


花柳界が織りなす繊細な季節感
寺田さんは「花柳界ならではの繊細な季節感を見てほしい」と語ります。花柳界とは、芸者、料亭、見番(芸者の派遣や稽古場の運営)、置屋(芸者が所属する事務所)、そして芸事の師匠などからなる文化的な社会を指します。

芸者の着物や髪飾り、料亭の生け花、料理に至るまで、花柳界では季節感の表現が重視されます。『幸本』では、床の間の掛け軸や生け花、女将や仲居の着物に至るまで、季節ごとのテーマを感じられる工夫が凝らされています。

また、料理では旬を大切にし、「はしり」「さかり」「なごり」という旬を3つの時期に分けて料理を提供します。例えば、一般的に2~3月に旬を迎える「ふきのとう」を1月から提供するなど、「初もの」と呼ばれる縁起物を特に重視しています。

こだわりの出汁が生む極上の味わい
『幸本』の料理は、特に出汁へのこだわりが際立っています。一般的には鰹節と昆布で取る出汁ですが、『幸本』では昆布はもちろん、鮪節や血合いの有無を使い分けた鰹節などにより、深みのある味を生み出しています。この丁寧な出汁作りが、『幸本』の料理をさらに特別なものにしています。


芸者文化・伝統芸能を守る「幸本会」と「神楽ごよみ」
『幸本』では、芸者文化の継承と発展のために「幸本会」と「神楽ごよみ」というイベントを開催しています。「幸本会」は26年前にスタートし、日本経済のバブル崩壊後に減少していた芸者の活動の場を増やすために始められました。
一方、「神楽ごよみ」は約10年前から行われているイベントで、八王子車人形や和妻(伝統的な手品)、幇間芸などの伝統芸能と芸者の踊りを一度に楽しむことができます。寺田さんは「自分が観たいものを呼んでいるだけ」と謙遜されますが、芸能一家(父も役者)ならではの発想がこうしたイベントの成功に繋がっているといえます。


女将・寺田歩さんが語る芸者文化の魅力
寺田さんは、文学座で初舞台を踏んだ女優としての経歴を持ちます。その経験があるからこそ、芸者の所作や感情表現の重要性を深く理解されており、芸者の指先や足の運びといった繊細な所作に注目してほしいと語ります。
また、寺田さんの温かい人柄も『幸本』の魅力の一つ。宴席の始めに挨拶をされ、お帰りの際には笑顔で見送られるその姿勢が、多くのお客様を再訪へと導いています。

『幸本』を訪れた外国人旅行者からは、「今回の日本旅行で一番素晴らしい体験だった」という声が多く寄せられます。芸者との会話や踊りの鑑賞、季節感あふれる料理、そして寺田さんや仲居の方々の接客に感動するそうです。
この特別な体験は、まさに一生の思い出となるでしょう。寺田さんも「より多くの方々に芸者文化と花柳界の繊細な季節感の表現を感じてほしい」と願っています。

まとめ:神楽坂で特別な時間を過ごすなら『幸本』へ

店舗情報: 料亭「幸本」
ホームページ: ww.kagurazakayukimoto.jp「神楽坂・幸本」で検索できます
住所:東京都新宿区神楽坂4-7
営業時間:月~土 18:00~23:00(土曜日は5名様以上からご予約を承ります)
定休日:日・祝日