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トラベル・ディバイドの解消を目指して

トラベル・ディバイドの解消を目指して

 

目次

1、売上高ゼロの状態が続く中で思考を重ねる

2、トラベル・ディバイドとは

3、高齢者の旅行回数は激減

4、シニア世代の趣味1位は「旅行」

5、旅行により認知症リスク低下

6、障害者旅行に対する目に見えない障壁(バリア)

7、家族連れは海外旅行の落ち込みが激しい

8、家族での海外旅行は子供の好奇心を伸ばす

9、ミレニアム世代にもトラベル・ディバイド

10、まとめ

 

1、売上高ゼロの状態が続く中で思考を重ねる

当社では2021年12月7日の会社設立以来、売上高ゼロの状態が続いています。当然、コストの分だけ赤字です。コロナ禍により個人の外国人旅行客が日本に来れないことが原因です。2022年春以降、欧米や一部アジアの国々で海外旅行解禁の動きが出てきたことから、日本政府も2022年秋には個人の外国人旅行客の入国緩和を行うと当社では予想していました。しかし、7月中旬以降のコロナ陽性者数の再拡大(第7波)により、2022年秋の入国緩和は難しくなったと言わざるを得ません。入国緩和まで当社の赤字が継続することは間違いない状況です。

このような厳しい状況の中、会社設立後、多くのことを考えました。もちろん、『存在目的』、『ミッション(経営理念)』、『ビジョン』も考えました。それぞれ、「誰もが自由に移動できる社会を作り、人々を幸せにする」、「①多様性を重視し、創造力を引き出す、②常識を覆し、問題・課題を解決する、③誠実に努力し、倫理にかなった事業を行う」、「未来の旅行を創出する」です。「未来の旅行」とはパスポートとスマートフォンだけで海外旅行へ行くことです。

未来の旅行

 

2、トラベル・ディバイドとは

多くの思考を重ねた中で、「誰もが自由に移動できる社会」とは「トラベル・ディバイドが解消された社会」であるとの考えに至りました。

トラベル・ディバイド

「トラベル・ディバイド」という言葉は「デジタル・ディバイド」からヒントを得た私の造語です。

ご存じのように、「デジタル・ディバイド」はインターネット等の情報通信技術(ICT)を利用できる者と利用できない者との間にもたらされる格差のことです。旅行業界にも旅行に行きたくても行けない人々が存在します。つまり、「トラベル・ディバイド」は旅行に行ける人と行けない人にもたらされる格差のことです。

「トラベル・ディバイド」には金銭的問題により旅行に行けない人も含まれます。しかし、旅行に行ける金銭的な余裕があっても荷物運搬などが負担となり旅行を諦めるような人々も数多くいます。

特に、高齢者、障害者、子育て世代にとっては旅行に行きたくても荷物運搬が負担となり旅行を諦める事態となっています。

一般的には高齢者と障害者を区別することが多いですが、内閣府によると「在宅身体障害者の年齢階層別の内訳は65歳以上が72.6%(2016年)」です。65歳以上の在宅身体障害者は311万2千人にもなります。

国連によると「世界人口の約15%にあたる10億人が障害を持って暮らしており、人口増加、医学の進歩、および高齢化に従って増加する」と予想されています。高齢化進行は避けられないため、日本、世界の障害者数の増加は確実です。

主要国の高齢化率

全ての若い健常者が「いずれ必ず高齢者となり、そのため障害者となる可能性が高いこと」を認識する必要があります。また、不慮の事故などによってある日突然、移動困難者になるかもしれません。移動困難者になることは他人事ではなく、全ての人の自分事なのです。

 

3、高齢者の旅行回数は激減

高齢者の旅行回数は70歳以上で激減します。2019年では平均旅行回数に対して国内旅行は34%減、海外旅行は72%減です。

年代別旅行回数の平均値からの乖離率

高齢者や障害者など移動困難者が旅行しやすいユニバーサルツーリズム、を早急に確立しなければ、高齢化と共に観光客数全体の減少は避けられません。

以下に記述するように、「トラベル・ディバイド」を解消することにより、社会課題の解決に結びつき、多くの人々が幸せになれます。

 

4、シニア世代の趣味1位は「旅行」

多くのシニアが旅行を趣味に挙げています。2021年9月8日に発表されたソニー生命の「シニアの生活意識調査2021(全国の50歳~79歳のシニア世代の男女1,000名の回答)」によると「現在の楽しみ」の1位は「旅行」(44.6%)でした。以下、2位「テレビ/ドラマ」(36.0%)、3位「映画」(26.7%)、4位「グルメ」(25.4%)、5位「読書」(24.2%)となりました。

シニア世代の「現在の楽しみ」

興味深いのは現在の楽しみに「旅行」を挙げたシニア世代は2020年調査の43.4%から2021年に44.6%へ上昇したことです。コロナ禍であったことを考えると旅行が相当強い楽しみになっていることが分かります。

Elderly couple visiting the sea

それにもかかわらず、先述のように高齢者の旅行回数が激減する(コロナ前の2019年のデータ)というのは旅行に行きたくても行けない人々が大幅に増加しているということです。

 

5、旅行により認知症リスク低下

クラブツーリズム株式会社と東北大学の共同研究により「旅行における認知症リスク低下の可能性」が確認されました。知的好奇心のひとつである「拡散的好奇心」が旅行の動機となっていることが確認され、旅行を通じ認知刺激を受けることで「主観的幸福度」が高まるメカニズムが解明されました。旅行に行くことで幸福度が上昇し、認知症リスクが低下するとの共同研究は非常に興味深いものです。

世界保健機関(WHO)によれば、「世界中で 5,500 万人以上の人びとが認知症を抱えながら暮らしており、毎年 1,000 万人近くが新たに発症しています。認知症は全疾病の中で死因として 7 番目であり、世界的に高齢者の障害とそれによる介護依存度を高める主要な原因の 1 つ」です。

認知症

また、厚生労働省によれば「日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。高齢化社会の日本では認知症に向けた取組が今後ますます重要になります」。

認知症

日本の認知症患者数は2030年に744万~830万人、2050年には797万~1,016万人と将来的な増加が予想されています。慶応義塾大学調査では認知症の社会的費用は年間14.5兆円に上ります(2015年5月29日発表)。また、認知症患者を家族に持つヤングケアラーも少なからずいます。昨今問題になっているヤングケアラー問題の解消に対しても旅行回数の増加はかかせません。

車椅子で女性を押す女の子

このように、「移動困難者」である高齢者や障害者の旅行回数が増えれば認知症患者が減少し、医療費削減や社会保障費削減に結び付くことが期待できます。

旅行に行きたくても行けず、「主観的幸福度」が下がり、認知症リスクが高まるとなれば、相当強い「トラベル・ディバイド」があると考えていいのではないでしょうか。認知症患者を抱える家族まで巻き込む可能性も高くなる高齢者や障害者の「トラベル・ディバイド」の解消は急務です。

 

6、障害者旅行に対する目に見えない障壁(バリア)

秋山哲男氏などの論文「観光困難階層にとってのユニバーサルツーリズム」によると障害者・高齢者への「旅行商品に対する不満」のアンケートで1位が「価格」38%でした。介助者が必要となるため、旅行代金が2-3倍と高額になる点は「目に見えない障壁(バリア)」です。なお、不満の2位は「ツアー内容の魅力」と「宿泊施設のバリアフリー対応」(ともに24%)となっています。バリアフリーへの不満よりも上位に来る「価格」への不満を我々健常者は十分に理解できていないと思います。障害者の旅行時の介助者を減らす方法を早急に確立する必要があります。

障害者

Tokyo2020パラリンピック大会で大きく進んだ駅などの公共施設での段差解消「目に見えるバリアフリー化」は貴重なレガシーとなりました。次は「社会の障害はどこにあるのか?」を常に意識することにより、「目に見えないバリアフリー化」によるユニバーサルデザインの進化が求められています。「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」な社会とは全ての人が「ラクに移動できる」社会でもあると私は思います。

 

7、家族連れは海外旅行の落ち込みが激しい

先掲の図表「年代別旅行回数の平均値からの乖離率」では家族旅行が旅行全体の平均よりも落ち込みが大きいか小さいかを理解することはできません。しかし、10代未満と10代の海外旅行(出国者ベース)が大きく落ち込んでいる(それぞれ53%減、27%減、2019年データ)ことは分かります。

海外旅行では家族旅行が大きく落ち込んでいます。海外旅行は旅行にかかる金額が国内旅行よりも高いことなどから、国内旅行よりも回数は少なくなります。JTB旅行年報2020では国内旅行を6,232名、海外旅行を4,002名のサンプル数で調査しています。単純に、サンプル数通り、海外旅行者は国内旅行よりも36%減少(6,232名から4,002名へ減少)したと仮定し、市場区分別に落ち込み方の乖離を調べました。

その結果、大分類では「友人や知人との旅行」が平均の落ち込みより軽微でした。また、「夫婦・カップルでの旅行」は平均並みでした。しかし、「家族旅行」は11%減となり、小分類の「乳幼児連れ」は27%減、「小中高生連れ」は16%減となりました。

市場区分別の海外旅行平均減少率からの乖離

もちろん、家族旅行は人数が多いことから金銭面で旅費を工面できないという点が家族での海外旅行が国内旅行よりも落ち込む主因でしょう。しかし、別のJTBの調査(2007年3月9日発表)では、金銭面の問題以外にも様々な問題があることが分かります。「海外旅行の支度で苦になること」の1位は「荷物の準備」22%でした。また、「旅行から帰って来て面倒なこと」の1位は「荷物の片付け」48%でした。また、女性は旅行の間に家事から開放された後の「家族の世話が面倒」とあります。

Heap of dirty clothes and laundry basket

また、当社がTOKYO創業ステーションTAMA(立川市)において、実施したテストマーケティング(2021年9月)においても、海外旅行での荷物(準備・運搬・洗濯・収納)への不満や負担を感じている人は90%にもなりました。

もちろん、家事は女性だけの仕事ではありません。それでも、現実社会では女性の負担が重いことは明らかです。女性の家事時間はOECD平均では女性が男性の1.9倍、日本はなんと5.5倍でした(出所:OECD生活時間の国際比較データ2020)。なお、調査対象14か国全てが女性の家事が男性よりも長いとの調査結果でした。

Laundry

海外旅行前後の準備・片付けという無駄な家事を無くせば、女性の負担が大きく減り、子育て世帯の家族旅行が増加する可能性が高まります。

 

8、家族での海外旅行は子供の好奇心を伸ばす

子供の好奇心を伸ばすよい機会となるのが異文化に触れる「海外旅行」だといわれます。「子供のころから、海外旅行などいろいろな社会と触れる経験をさせて、常識を考え直させることが重要だ(出所:2019年6月7日President Online ”かわいい子には旅をさせよ”の本当の理由)」と明治大学国際日本学部教授小笠原泰氏は述べています。

また、東洋大学森下晶美准教授は、成長期に家族旅行経験の多い子どもは、成人後、自分の性格や志向においての満足度が高いという調査報告をしています。海外家族旅行経験は「適応力」、「自主性」、「コミュニケーション力」、「向社会性・社会性」、「思いやり・精神の安定性」という人間性の形成に有効であるといいます(出所:海外家族旅行が子どもにもたらす効果について、2021年3月)。

双眼鏡で遠くを見ている子供

子育て世代が旅行に行きたくても行けず、子供の好奇心や人間性形成にも影響を与えるのであれば、高齢者、障害者向け同様に、相当強い「トラベル・ディバイド」があると考えていいでしょう。ここでも「トラベル・ディバイド」の解消は急務といえます。

 

9、ミレニアム世代にもトラベル・ディバイド

また、Hotels.comが世界26カ国を対象とした調査ではミレニアル世代の旅行者の32%が、「人生における最大のストレスのひとつとして旅行の事前計画」を挙げました。7人に1人以上は20時間以上を旅行計画の検索に費やしているそうです。また、検索疲れにより25%は旅行を断念し、36%は「友人に約2万円を払ってでも検索を依頼したい」と思っています。日本のミレニアル世代の旅行者も、47%が「さまざまな候補を検討することにうんざりする」、61%が「候補の数に圧倒される」と回答しています。

too much work

無限とも言える旅行の「多すぎる選択肢」は、選択肢が増えると人はかえって不幸になるという「選択のパラドックス」です。これは情報過多のネット社会が後退しない限り、年々悪化するでしょう。

ミレニアル世代が旅程作成などのストレスなどで旅行に行きたくても行けず、「主観的幸福度」が下がってしまうことも、「トラベル・ディバイド」と言っていいでしょう。

 

10、まとめ

以上のように、多くの人々に「トラベル・ディバイド」が存在し、その解消に努めることが今後、社会にも求められることとなるでしょう。当社では「誰もが自由に移動できる社会を作り、人々を幸せにする」という存在目的のために、「トラベル・ディバイド」解消を目指します。

 

 

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