なぜ地方観光振興の鍵は「東京」にあるのか
——神楽坂から考える、日本伝統文化体験の新しい設計

2026年5月28日、株式会社EDO KAGURAは「旅行サービス手配業」の登録(東京都知事登録旅行サービス手配業 第20992号)を完了しました。あわせて、副商号(旅行ブランド名)として「EDO KAGURA TRAVEL」を登録しました。
この登録によって、大手旅行会社との正式な取引や、日本全国のツアー手配が可能になります。ただし、私たちが目指すのは全国展開ではありません。神楽坂を原点に、「狭く深く」という哲学を貫きながら、「神楽坂+α」という形で日本の旅行体験の質を根本から変えることです。
今回の登録を機に、私がなぜ神楽坂にこだわるのか、そしてこの街が日本の地方観光振興にとってどのような意味を持つのかを、データとともに説明したいと思います。
リピーターを増やせば地方が潤う。では、リピーターはどこで、どう生み出すのか。
2026年3月に閣議決定された第五次観光立国推進基本計画は、観光を「戦略産業」として明記し、訪日外国人旅行者に占めるリピーター数を2024年実績の2,422万人から2030年に65%増の4,000万人へ引き上げることを目標に掲げています。
なぜリピーターがそれほど重要なのか。観光庁のデータが明確に示しています。主要9か国・地域の平均消費額は、訪日1回目と比較して6回目以上のリピーターでは20%増加します(2023年)。さらに、訪日回数が増えるほど地方部を訪問する割合も上昇します。リピーターは消費額が多く、地方へも向かう。日本の観光政策にとって、これほど質の高い顧客はいません。
しかし、私がずっと感じてきた疑問があります。「どうすれば旅行者はリピーターになるのか」という問いへの答えが、観光政策の議論の中でまだ十分に共有されていないのです。目標は示されている。しかし、その目標を達成するための、旅行者の心理と動線に基づいた具体的な設計論が足りない。
私はその答えを、神楽坂での実践の中で見つけました。
答えは、東京にあります。
少し意外に思われるかもしれません。地方観光振興の鍵が、なぜ東京なのか。
出入国在留管理庁「出入国管理統計」(2024年)によれば、外国人旅行者全体の46.6%が成田空港・羽田空港を利用しています。伝統文化体験への関心が高く、旅行消費額も大きい欧米豪市場に限れば、欧州74.0%、北米81.5%、オセアニア75.5%——平均77.0%が東京圏を日本の玄関口としています。
さらに、訪日回数の増加に伴う三大都市圏の訪問率の変動を見ると、重要な構造が見えてきます。
【リピーター化に伴う訪問率の変動:欧米豪市場平均】
| 都市 | 訪日1回目 | 6回目以上 | 変動幅 |
|---|---|---|---|
| 東京 | 95.5% | 79.8% | ▲15.7ポイント |
| 大阪 | 61.4% | 34.9% | ▲26.6ポイント |
| 京都 | 72.5% | 33.4% | ▲39.1ポイント |
出所:観光庁「訪日外国人旅行者(観光・レジャー目的)の訪日回数と消費動向の関係について」
※主要9か国・地域平均でも同傾向。変動幅は東京▲9.4pt、大阪▲19.4pt、京都▲22.1pt。
大阪・京都はリピーターになるほど訪問率が大きく低下します。オーバーツーリズムへの忌避感が背景にあると考えられます。一方、東京は6回目以上のリピーターでも79.8%と高水準を維持しています。
理由は明白です。成田・羽田が日本の玄関口である以上、旅行者は何度訪日しても東京を経由します。地方へ向かうリピーターも、東京を通る。つまり、東京での体験の質が、日本旅行全体の満足度を左右し、リピーターの増減を決定づけているのです。
地方観光振興のためには、東京での満足度向上が不可欠である——一見逆説的に聞こえますが、データはそう示しています。
なぜ神楽坂なのか。
東京の中で、なぜ神楽坂なのか。
江戸以来、武家屋敷群として栄え、文化人・文学者・職人・商人が集積し洗練されてきた「粋」な街、神楽坂。花街の名残が石畳の路地に息づき、料亭の灯りが夜を彩るこの街は、伝統文化の美意識が今なお生きている東京で稀有な場所です。
私はこの街で25年間暮らしています。だから私は、この街を離れるつもりはありません。そしてこの街だからこそ、富裕層インバウンド向けに「本物」の伝統文化体験を提供できると確信しています。
芸者、能楽、坐禅、組紐、和菓子、浮世絵——これらを「見せる」のではなく、その背景にある美意識と文脈を「理解してもらう」ことが、私たちの仕事です。

旅の「起点」と「終点」を、神楽坂で設計する。
私たちが提供するのは、個別の体験の販売ではありません。旅の全体を一つの体験として設計することです。
【起点:入国直後】「見る」から「理解する」へ。
旅行者が入国直後に神楽坂で日本文化の美意識に触れ、その背景と解像度を得ることで、その後に訪れる京都でも、金沢でも、瀬戸内でも、体験の深度が根本から変わります。最初に「文脈」を持つことが、旅全体の満足度を左右するのです。
【終点:帰国前日・当日】旅の最後に、本物を体験する。
行動経済学で知られる「ピーク・エンドの法則」によれば、人は体験を「最も感情が動いた瞬間(ピーク)」と「終わり方(エンド)」によって記憶します。帰国前日に神楽坂で最高水準の伝統文化体験をお届けすることは、日本旅行全体の記憶を最良のものとして刻むことを意味します。「また日本に来たい」——その感情は、旅の終わりに生まれるのです。
さらに私たちは、帰国当日の朝にも着目しました。欧米豪便は午後・夕方発が多く、ホテルチェックアウト後から搭乗までの時間が空白になりがちです。この時間に、帰国当日でも参加可能な朝の文化体験プログラム「SHOGUN Cultural Experiences」(7:30〜10:00)を展開しています。出発の朝まで、妥協のない本物の日本文化をお届けする。それが私たちの旅程設計の終着点です。
旅のスタートで日本文化の背景を理解し、帰国前に伝統文化の感動で締めくくる。東京で日本の美意識に触れ、満足した旅行者がリピーターとなり、次の旅で地方へ向かう。そしてまた、帰国前に東京で満足して、日本に戻ってくる。この循環こそが、リピーターを生み、地方観光を豊かにすると私は信じています。
「神楽坂+α」へ。
今回の旅行サービス手配業登録と「EDO KAGURA TRAVEL」の始動は、この循環を設計するための経営の自由度を得ることが本質です。
東京圏から入出国する欧米豪旅行者の多くは、神楽坂のわずか数キロ圏内を通過しながら、本物の日本文化の文脈に触れることなく空港へ向かいます。その機会損失は、旅行者にとっての損失であると同時に、日本の地方観光にとっての損失でもあります。
東京で日本文化を深く理解した旅行者が、地方へ向かう。その循環を、神楽坂から育てていきたいと思います。
株式会社EDO KAGURA
代表取締役
山田真也