3月の日本旅程4日目(広島県)
(3月25日 金曜日)
目次
1、常夜燈
3月25日の朝に、福山駅からバスで鞆の浦(とものうら)へ行きました。私が利用したバスは以下の通りです。
福山駅8:20発 鞆鉄道バス 鞆港行 鞆の浦8:50着 運賃530円
私は鞆の浦バス停で下車してしまいましたが、常夜燈周辺から散策を始めるのであれば、終点の鞆港バス停で降りる方が便利です。なお、鞆の浦観光情報センターは鞆の浦バス停下車すぐです。観光情報を集めるには鞆の浦バス停で下車するべきです。
鞆の浦は万葉集(759年)に鞆の浦を詠んだ歌が八首あるなど、古代から集落があった古い街です。足利尊氏が京に上る途中、鞆の浦で光厳上皇より新田義貞追討の院宣を賜った場所でもあります。織田信長によって京を追放された室町幕府15代将軍足利義昭は1576年にほかの幕府の武家とともに拠点を鞆に移し「鞆幕府」と呼ばれた時期もありました。このため、幕末の歴史家・頼山陽は「足利(室町幕府)は鞆で興り、鞆で滅びた」と喩えました。また、「潮待ちの港」として江戸時代に栄えた町でした。
鞆の浦は「福山市鞆町伝統的建造物群保存地区」として、「国の重要伝統的建造物群保存地区」として選定されています。また、2008年公開された「崖の上のポニョ」で、宮崎駿監督が2か月間滞在し、構想を練った地として有名となりました。
常夜燈は鞆の浦のシンボルです。1859年に建造されました。常夜燈は10mを越す大きさで、港の常夜燈としては日本一の高さを誇ります。
なお、江戸期の港湾施設である常夜燈、雁木、波止場、焚場跡、船番所跡が現存しているのは日本全国で鞆港だけです。
常夜燈のすぐそばに「いろは丸展示館」があります。「いろは丸展示館」は1867年5月26日に鞆の沖合で起こった「いろは丸」と「明光丸」(紀州藩所有)の衝突事件に関連する遺物や写真・イラスト情報を展示する博物館です。当面の間、土・日・祝のみ開館です。私は金曜日の訪問だったので、残念ながら内部を見られませんでした。
入館料:小学生以上200円
2、太田家住宅
常夜燈、いろは丸展示館の近くにある「太田家住宅」は旧保命酒屋です。瀬戸内海を代表する江戸時代の商家、酒蔵の保存状態がいいことから、国の重要文化財に指定されています。
「太田家住宅」は尊皇攘夷派の三条実美ら7人の公卿が1863年に長州に逃れる際と1864年に長州から船で京都へ向かう際に宿泊場所として使われました。
「太田家住宅」は当面の間、土・日・祝のみ開館です。私は金曜日の訪問だったので、残念ながら内部を見られませんでした。
入館料:中学生以上400円、小学生200円
保命酒屋「鞆酒造株式会社」は今でも「太田家住宅」から少し離れた場所で営業をしています。風格がある素晴らしい家屋でした。鞆の浦には保命酒を作っている酒造は数店舗あります。
3、法宣寺、妙蓮寺、沼名前(ぬなくま)神社、安国寺
鞆の浦には多くの神社仏閣があります。これら多くの神社仏閣の存在が江戸時代までの鞆の浦の繁栄を証明しています。
保命酒屋から沼名前(ぬなくま)神社へ向かう途中に、法宣寺があります。保命酒屋から徒歩5分ほどの場所です。法宣寺は1358年に、日蓮宗の高僧の大覚大僧正が法華堂を建立したのがはじまりです。江戸時代には朝鮮通信使の宿所にもなっていました。私の訪問時は梅が綺麗に咲いていました。
法宣寺のすぐ先には山中鹿之助首塚があり、その横に妙蓮寺があります。妙蓮寺は慶長年間(1596~1614年)に創建したと伝えられています。法宣寺同様、朝鮮通信使の宿所にもなっていました。
沼名前(ぬなくま)神社は明治時代に渡守神社(わたすじんじゃ)と鞆祇園宮(ともぎおんぐう)を合祀し、「沼名前神社」と改称したものです。社伝では渡守神社の創建に関して、第14代仲哀天皇2年(西暦193年)に神功皇后が西国に向かった際、当地の霊石に綿津見命を祀り海路安全を祈ったことに始まるとされています。一方、鞆祇園宮の創建については不詳です。ただ、鞆祇園宮は京都の八坂神社の本社とされています。
本社社殿の一段下には安土桃山時代の能舞台があります。元は伏見城内にあって豊臣秀吉も愛用したという組立式の舞台です。この能舞台は福山城主・水野勝成が二代将軍・徳川秀忠より拝領し、それを沼名前神社に寄進したものです。組み立て様式の能舞台は国内で唯一現存しているものです。国の重要文化財です。内部は見ることができません。
境内最下段に建てられている第二鳥居(二の鳥居)は1625年に水野勝重(のちの2代藩主水野勝俊)が寄進したものです。笠木の先端は丸味を付けて反り上がっており、笠木の両端に「鳥衾(とりぶすま)」が付く「二の鳥居」は他に類がなく、日本で沼名前神社だけです。広島県の重要文化財に指定されています。
沼名前神社から5分程度歩くと安国寺があります。安国寺は1273年に無本覚心(法燈国師)を開山として金宝寺(安国寺の前身)として創建されました。安国寺の釈迦堂、木造阿弥陀如来及両脇侍立像は国の重要文化財です。
入場料:大人150円 大学生100円 高校生以下無料
4、龍馬の隠れ部屋
安国寺から徒歩10分弱の場所に、桝屋清右衛門宅「龍馬の隠れ部屋」があります。途中の通りは江戸時代の建物が残り、散策が楽しかったです。
「いろは丸事件」の際、鞆の浦を訪れた坂本龍馬らが宿泊したのが桝屋清右衛門宅です。桝屋清右衛門宅の天井裏の隠し空間に坂本龍馬が隠れて滞在していたと言われています。坂本龍馬が宿泊したのは1867年、京都で殺害される約7カ月前です。
入館料:大人200円、小・中・高校生100円
5、福禅寺対潮楼
「龍馬の隠れ部屋」から歩いて3分の場所にある「福禅寺対潮楼」は鞆の浦観光のハイライトです。「福禅寺対潮楼」は国の史跡に指定されています。福禅寺は950年頃、空也上人によって、「観音堂」(天台宗)として創建されたと伝えられています。対潮楼は1694年に建立されました。
対潮楼は朝鮮通信使のための迎賓館として使用され、1711年の第8回通信使では従事官の李邦彦が対潮楼から見た鞆の浦の景色を「日東第一形勝」(朝鮮より東の世界で一番風光明媚な場所の意)と賞賛しました。この文を額にしたものが対潮楼に掲げられています。また、対潮楼からの眺望写真は谷村新司の「いい日旅立ち(山口百恵のカバー)」のCDジャケットにも使われました。
福禅寺は「いろは丸事件」の際、海援隊と紀州藩の交渉の場にもなりました。
入館料:大人200円、中高生150円、小学生100円
6、磐台寺阿伏兎(あぶと)観音
磐台寺阿伏兎(あぶと)観音は鞆の浦から約4km離れた場所にあります。バスでも行けますが、本数が少ないので、私はレンタサイクル(500円)で行きました。小高い山を越えるので、自転車ではかなり大変でした。自転車では20-30分程度かかります。到着後の磐台寺阿伏兎(あぶと)観音は絶景で、苦労して行ったかいがありました。体力に自信がない方はバスかタクシーを利用する方がいいでしょう。
磐台寺は992年に花山法皇により石造十一面観音像を本尊に祀り、付近の航海の安全を祈願するために創建されました。1185年には源平合戦(治承・寿永の乱)により被害を受けました。観音堂は1570年に毛利輝元によって創建され、国の重要文化財に指定されています。
観音堂はその美しさから歌川広重の浮世絵などの絵画の題材に多く取り上げられています。
なお、観音堂の床板は海側に傾いており、とても危ない状態でした。しかし、観音堂から見える瀬戸内海は絶景でした。是非、観音堂を皆さんに訪問して欲しいと思います。
また、磐台寺客殿は広島県の重要文化財に指定されています。桃山様式の禅宗方丈建築です。
入場料:中学生以上100円、小学生50円
7、明王院
鞆の浦と磐台寺阿伏兎観音の観光を満喫し、バスで明王院へ向かいました。私が利用したバスは以下の通りです。
鞆港11:18発 鞆鉄道バス 福山駅前行 草戸大橋11:46着 運賃480円
草戸大橋のバス停から明王院までは芦田川沿いを歩いて15分程度です。
明王院は807年に常福寺として、弘法大師によって創建されました。
明王院の本堂と五重塔は国宝です。
本堂は1321年の建立です。和様建築に大仏様、禅宗様を加味した折衷様建築の代表例とされています。
五重塔は1348年に建立された純和様の塔です。高さは29メートルあるとても美しい塔です。この五重塔は日本で5番目に古い塔です。有力者の資金ではなく、民衆の浄財を募って建立された塔です。民衆の浄財を多く集められたのは明王院の門前に草戸千軒町が栄えたことが背景にあります。
草戸千軒町は芦田川に埋もれた中世遺跡です。遺跡からの出土遺物は福山市にある広島県立歴史博物館で保存・展示されています。出土遺物は国の重要文化財に指定されています。
山門、書院、庫裡は広島県指定重要文化財です。
明王院は国宝建造物を2棟持つ寺院ですが、私の訪問時には他の観光客は誰もいませんでした。多くの人に訪問して欲しい素晴らしい寺院です。
8、草戸稲荷神社
明王院の隣に草戸稲荷神社があります。草戸稲荷神社は807年に空海上人が明王院(当時は常福寺)の鎮守として祀ったのが最初とされます。草戸稲荷神社は「京都伏見稲荷の系列の中における日本稲荷5社」と称されています。
元々、草戸稲荷神社の社殿は芦田川の中州に鎮座されていましたが、1655年に福山藩水野家第3代勝貞が今の地に社殿を移しました。
現在の本殿は昭和時代末期にコンクリート構造物の上に移設されたものです。本殿からは素晴らしい景色を堪能できます。
9、大橋家住宅
草戸稲荷神社から福山駅までタクシーで戻りました。乗車時間は10分程度です。草戸稲荷神社から福山駅まで歩くと30分強かかります。時間があれば、歩くのもいいと思います。
福山駅周辺で昼食を食べ、JRで倉敷へ向かいました。私が利用したJRは以下の通りです。
福山駅13:27発 山陽本線 岡山行 倉敷駅14:09着 運賃770円
倉敷駅到着後、徒歩10分程度の大橋家住宅へ行きました。なお、大橋家住宅は「倉敷美観地区」から少し離れた場所にあります。
大橋家住宅は1796年から1799年に建設されました。白壁に貼り瓦、倉敷格子など倉敷独特の建築様式を有します。国の重要文化財に指定されています。
入館料:大人550円、小中学生・65歳以上350円
10、大原美術館新児島館(仮称)
大橋家住宅から徒歩2-3分の場所にある「倉敷美観地区」へ行きました。
大原美術館新児島館(仮称)は1922年に建てられた倉敷初の本格的洋風建築です。元々は第一合同銀行倉敷支店、中国銀行倉敷本町出張所でした。国登録有形文化財です。設計は大原美術館や倉紡中央病院などを設計した薬師寺主計(やくしじかずえ)です。
大原美術館新児島館(仮称)は2021年10月1日に暫定開館しました。私の訪問時は無料開放していました。現代美術家ヤノベケンジの巨大な彫刻作品「サン・シスター(リバース)Sun Sister(Rebirth)」が展示されています。「サン・シスター(リバース)」は定期的に立ち上がります。
11、倉敷美観地区散策
「倉敷美観地区」は「倉敷市倉敷川畔伝統的建造物群保存地区」として「国の重要伝統的建造物群保存地区」に選定されています。
倉敷は江戸幕府の天領(直轄領)で備中の物資集散地として発展した歴史を持ちます。司馬遼太郎は自著「街道をゆく」の中で、「天領はもともと豊かな土地が選ばれ、その上租税も安かった」と述べています。天領であった土地は農民にもゆとりがあり、豊かな文化が発展したと考えられます。また、第二次世界大戦において、倉敷市中心部は全く爆撃されなかったことも「倉敷美観地区」が残った理由です。
「倉敷美観地区」の街並み散策はとても楽しいものでした。
「倉敷美観地区」にある倉敷川では「くらしき川舟流し」があります。倉敷館観光案内所にて、大人500円、子ども250円の料金でチケットが販売されています。大人500円にはかなりお得感があり、私が訪問した日には15時頃には当日チケットは完売でした。
大原美術館は日本を代表する美術館の一つです。西洋美術、近代美術を展示する美術館としては日本最初の美術館です。1930年に開館しました。残念ながら、今回は時間が無く美術館に入場しませんでした。
大原美術館分館はDOCOMOMO (Documentation and Conservation of buildings, sites and neighbourhoods of the Modern Movement) JAPAN選定「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選ばれています。
新渓園は1893年に倉敷紡績の初代社長大原孝四郎氏の別荘として建設されました。入場料は無料です。
倉敷アイビースクエアは1889年に建設された倉敷紡績所(現:クラボウ)の本社工場を再開発した複合文化施設です。敷地内には宿泊施設やレストラン、倉紡記念館などがあります。
倉敷アイビースクエアのすぐ近くには「いがらしゆみこ美術館」があります。いがらしゆみこは「キャンディ・キャンディ」など少女漫画で有名な漫画家です。「いがらしゆみこ美術館」は「倉敷美観地区」の風景に全くなじまないのですが、倉敷アイビースクエアの塀によりあまり目立ちません。
入場料:大人600円、学生(高・中)400円、小人300円
12、旧大原家住宅・有隣荘
旧大原家住宅は江戸時代後期(1700年代末期)に建てられました。一階の倉敷格子や二階の倉敷窓、なまこ壁など蔵屋敷の典型的な特徴があります。従来、大原家当主が居住しており、内部は非公開でしたが、2018年4月に「語らい座大原本邸」として公開を始めました。「語らい座」の名の通り、内部を見学しているとスタッフの方々が様々なことを丁寧に説明してくれます。
「語らい座大原本邸」にはブックカフェもあり、とてもリラックスできる見学となりました。
旧大原家住宅は国の重要文化財です。
入館料:大人500円、高校生以下400円
有隣荘は1928年に大原孫三郎が家族で住むために建てた大原家の旧別邸。緑色の瓦屋根が特徴的な建物です。独特の製法で焼かれた瓦は見る角度によって緑色に光ります。緑の瓦の色合いと土色の塀とのコントラストも素晴らしいです。1947年には昭和天皇の宿泊所としても使用されました。年に春と秋に1回ずつ、大原美術館主催の特別展示の際に内部が公開されています。
「倉敷美観地区」の観光を満喫し、夕食を食べた後、岡山空港へバスで向かい、飛行機で東京に戻りました。私が利用した公共交通機関は以下の通りです。
倉敷駅北口18:25発 リムジンバス 岡山桃太郎空港行 岡山桃太郎空港19:00着 運賃1,150円
岡山桃太郎空港20:00発 ANA660便 羽田空港21:20着
3月25日にまわった観光スポットは一日でまわった観光スポットの数として、今までの旅行で最も多かったと思います。2か所の「国の重要伝統的建造物群保存地区」に加え、国宝、国の重要文化財など多くの観光スポットを回ることができました。
(注:文中に掲載している交通機関の出発・到着時間や運賃、入場料、食事の料金などはBLOG執筆時のものです。今後変更する可能性がありますので、旅行に行く際にご自身でご確認ください。)