荷物を削減し、サステナブル・トラベルを実現
目次
1:序文
2:サステナブル・トラベルのニーズの高まり
3:飛行機の二酸化炭素排出量
4:荷物を削減することによる二酸化炭素排出量削減効果
1:序文
地球環境問題への関心が年々高まり、サステナブル・トラベルのニーズも高まっています。環境運動家グレタ・トゥーンベリさん(スウェーデン)の活動などから「飛び恥(Flight Shame)」という言葉まで生まれました。
日本は島国であるため、日本への外国人旅行者の99.4%は重いトランクと共に飛行機に搭乗して日本に入出国します(出所:2019年訪日外国人消費動向調査)。韓国など近隣国の人は船舶による来日も選択肢に入れられますが、全ての外国人旅行者に飛行機以外で来日を求めるのは不可能です。
国土交通省の調査では1人が1km移動する際の二酸化炭素排出量(2019年度)は自動車の130gに対し、航空機は98g(自動車の75%)、バスは57g(同44%)、鉄道は17g(同13%)です。従って、日本に飛行機で入出国し、レンタカーで日本を旅行することは二酸化炭素排出量の観点から最悪の旅行スタイルであるといえます。このことから、当社では日本での鉄道旅行を推奨しています。
後述するように、サステナブル・トラベルに関心がある旅行者は旅行時に二酸化炭素排出量削減策を模索しています。当社では日本へは飛行機を使わざるを得ない外国人旅行者に対して、飛行機へ搭載する荷物を削減することというすぐに実行できる大幅な二酸化炭素排出量削減策を提案したいと思います。
2:サステナブル・トラベルのニーズの高まり
Booking.comによる調査(2022年6月発表、32か国30,314人の回答)では世界の旅行者の71%、日本の旅行者の46%が「今後12ヶ月間において、よりサステナブルな旅を心がけたい」と回答しています。この回答は世界の旅行者では2021年の61%から10%も増加しました。また、世界の旅行者の81%、日本の旅行者の73%が「サステナブルな旅は自身にとって重要である」と回答しており、大多数の人々がサステナブル・トラベルの重要性を認識しています。
また、世界の旅行者の41%が「地球環境への影響の軽減に貢献したい」とし、33%が「交通機関のCO2排出量を減らすための行動を取りたい」と回答しています。さらに、29%が「旅行や観光がもたらす負の影響を減らすのは旅行者の責任である」と考えています。
また、世界の旅行者の75%が「より地球環境に優しい交通手段(タクシーやレンタカーよりも徒歩、自転車、公共交通機関など)を利用したい」と回答しています。30%が「地球環境への影響を考慮し、飛行機を利用することを恥ずかしく思っている」、28%が「目的地までの移動時間を長くしてでも、二酸化炭素排出量を削減したい」との回答もあります。
しかし、日本は島国のため、飛行機以外の入出国手段は現実的ではありません。そこで飛行機に乗りながら、大幅な二酸化炭素排出量削減方法を提案したいと思います。それは飛行機に搭載する荷物を減らすことです。
3:飛行機の二酸化炭素排出量
Our World in Dataによると飛行機からの二酸化炭素排出量は年々増加し、世界の2.5%を占めます。2022年10月には国連の専門組織、国際民間航空機関(ICAO)は国際線の航空機が排出する二酸化炭素(CO2)を2050年に実質ゼロとする目標を決定しました。このために、植物や廃油を原料にした燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」への転換が急務ですが、世界のSAF生産量は2020年で年間10万トン程度と年間燃料消費量のわずか0.03%しかありません。SAFは製造コストが高いことと、供給量が極めて少ないことが課題です。
出所:Our World in Data
日本への訪日外国人数と日本への旅行する際の二酸化炭素排出量を確認します。2019年の訪日外国人は3,188万人でした。中国、韓国、台湾、香港など近隣国からの旅行者数が多くを占めます。訪日客の総人口に占める割合は香港が31.6%、台湾が20.7%など大変高い比率となっています。
2019年の訪日外国人数と総人口に対する割合
訪日外国人数(百万人) | 総人口当たり訪日客数(%) | ||
1 | 中国 | 9.59 | 0.7 |
2 | 韓国 | 5.58 | 11.0 |
3 | 台湾 | 4.89 | 20.7 |
4 | 香港 | 2.29 | 31.6 |
5 | 米国 | 1.72 | 0.5 |
6 | タイ | 1.32 | 1.9 |
7 | 豪州 | 0.62 | 2.6 |
8 | フィリピン | 0.61 | 0.6 |
9 | マレーシア | 0.50 | 1.6 |
10 | ベトナム | 0.50 | 0.5 |
11 | シンガポール | 0.49 | 8.7 |
12 | 英国 | 0.42 | 0.6 |
13 | インドネシア | 0.41 | 0.2 |
14 | カナダ | 0.38 | 1.0 |
15 | フランス | 0.34 | 0.5 |
16 | ドイツ | 0.24 | 0.3 |
17 | インド | 0.18 | 0.01 |
18 | イタリア | 0.16 | 0.3 |
19 | スペイン | 0.13 | 0.3 |
20 | マカオ | 0.12 | 19.8 |
21 | ロシア | 0.12 | 0.1 |
総数 | 31.88 |
国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)の「ICAO Carbon Emissions Calculator」で成田空港から各国主要空港までの二酸化炭素排出量(往復)を計算してみました。このシュミレーションでは当然のことながら、近距離移動の旅客一人当たり二酸化炭素排出量は少なく、飛行距離が長い欧米における旅客一人当たり二酸化炭素排出量が多くなります。訪日外国人統計における上位国の旅客一人当たり二酸化炭素排出量(往復)は近距離の北京空港成田空港間が338kg、長距離のワシントン空港成田空港間では785kgとなります。
一方、預入手荷物(20kg)の二酸化炭素排出量はECTA(The European Clean Trucking Alliance)の「Guidelines for Measuring and Managing CO2 Emission from Freight Transport Operations 2011年」に記載されているデータを使用し、当社が計算しました。計算に使用した飛行機による貨物輸送量(トンキロ)あたり二酸化炭素排出原単位は0.602kgCO2/tkmです。
なお、英国環境・食料・農村地域省(DEFRA、Department for Environment, Food and Rural Affairs)では貨物の輸送機関別輸送量(トンキロ)あたり二酸化炭素排出原単位を国際線長距離フライト基準(6,482km)では0.61931kgCO2/tkm、国際線短距離フライト(1,108km)では1.48848kgCO2/tkm、国内短距離フライト(463km)では1.98149kgCO2/tkm、と長距離飛行では燃料の有効活用分が考慮されているようです。なお、DEFRAのデータは国土交通省の「物流から生じる CO2排出量のディスクロージャーに関する手引き」に掲載されていたデータです。
旅客一人当たり二酸化炭素排出量に対する預入手荷物(20kg)の二酸化炭素排出量は飛行距離によって異なりますが、15%~35%程度となります。
主要都市からの成田空港からの距離と二酸化炭素排出量
成田空港からの距離(往復、km) | CO2排出量(kg) | ||
旅客1人 | 預入手荷物(20kg) | ||
米国(ワシントン) | 21,684 | 785 | 261 |
カナダ(トロント) | 20,594 | 749 | 248 |
イタリア(ローマ) | 19,776 | 781 | 238 |
フランス(パリ) | 19,416 | 815 | 234 |
イギリス(ロンドン) | 19,170 | 784 | 231 |
ドイツ(フランクフルト) | 18,730 | 675 | 226 |
オーストラリア(メルボルン) | 16,344 | 875 | 197 |
ロシア(モスクワ) | 14,990 | 685 | 180 |
インド(デリー) | 11,812 | 693 | 142 |
インドネシア(ジャカルタ) | 11,668 | 620 | 140 |
シンガポール(シンガポール) | 10,708 | 588 | 129 |
マレーシア(クアラルンプール) | 10,812 | 550 | 130 |
タイ(バンコク) | 9,292 | 538 | 112 |
ベトナム(ハノイ) | 7,436 | 429 | 90 |
フィリピン(マニラ) | 6,096 | 388 | 73 |
香港(香港) | 5,922 | 417 | 71 |
台湾(台北) | 4,362 | 313 | 53 |
中国(北京) | 4,268 | 338 | 51 |
韓国(ソウル) | 2,510 | 201 | 30 |
平均 | 12,399 | 591 | 149 |
注:ローマ、ロンドン、モスクワの旅客1人当たりの排出量は羽田空港からのデータ、旅客1人当たりの排出量はエコノミークラスのデータ
出所:ICAO、ECTA、英国環境・食料・農村地域省(Defra)、国土交通省
4:荷物を削減することによる二酸化炭素排出量削減効果
預入手荷物(20kg)を飛行機に搭載しないことによる二酸化炭素排出量削減効果をより分かりやすく、各国ごとの一人当たり二酸化炭素排出量と比較してみました。日本までの飛行距離と一人当たり二酸化炭素排出量により差がありますが、1日~27日分の削減効果となります。削減効果が1日分しかないのは飛行距離が短い韓国、27日分も削減効果があるのは一人当たり二酸化炭素排出量が少ないインドです。欧州各国は9日分(ドイツ)~17日分(フランス)まで削減効果には差があります。
なお、世界平均の一人当たり二酸化炭素排出量4.79トン(年間)と比較すると米国が20日分、カナダが19日分、イタリアが18日分などとフライト距離に比例する削減効果となります。
一人当たり年間CO2排出量(t)
CO2排出量全体 | 日常生活に関わるCO2排出量 | |
カナダ | 18.6 | 2.7 |
オーストラリア | 17.1 | 0.6 |
アメリカ合衆国 | 15.5 | 1.7 |
韓国 | 11.9 | 1.0 |
台湾 | 11.7 | 1.4 |
ロシア | 11.4 | 1.0 |
ドイツ | 9.4 | 1.7 |
マレーシア | 8.7 | 0.2 |
シンガポール | 8.6 | 0.1 |
中国 | 7.4 | 0.4 |
香港 | 6.5 | 0.2 |
イタリア | 5.9 | 1.1 |
イギリス | 5.6 | 1.1 |
フランス | 5.1 | 1.2 |
タイ | 3.9 | 0.1 |
ベトナム | 2.2 | 0.2 |
インドネシア | 2.0 | 0.1 |
インド | 1.9 | 0.1 |
フィリピン | 1.2 | 0.1 |
平均 | 8.1 | 0.8 |
出所:Worldometer、World Bank Data
預入手荷物(20kg)を搭載しない場合の一人当たりCO2排出量に対する削減効果(往復)
CO2排出量全体に対する削減効果(日数) | 日常生活に関わるCO2排出量に対する削減効果(日数) | |
インド | 27 | 495 |
インドネシア | 25 | 494 |
フィリピン | 22 | 316 |
フランス | 17 | 71 |
イギリス | 15 | 80 |
ベトナム | 15 | 187 |
イタリア | 15 | 82 |
タイ | 10 | 372 |
ドイツ | 9 | 49 |
アメリカ合衆国 | 6 | 56 |
ロシア | 6 | 63 |
マレーシア | 6 | 290 |
シンガポール | 6 | 415 |
カナダ | 5 | 34 |
オーストラリア | 4 | 113 |
香港 | 4 | 119 |
中国 | 3 | 47 |
台湾 | 2 | 14 |
韓国 | 1 | 12 |
平均 | 10 | 174 |
出所:Worldometer、World Bank Data、英国環境・食料・農村地域省(Defra)、国土交通省、当社計算
世界平均の一人当たりCO2排出量に対する預入手荷物(20kg)を搭載しない場合の削減効果(往復)
CO2排出量全体に対する削減効果(日数) | 日常生活に関わるCO2排出量に対する削減効果(日数) | |
アメリカ合衆国 | 20 | 231 |
カナダ | 19 | 220 |
イタリア | 18 | 211 |
フランス | 18 | 207 |
イギリス | 18 | 205 |
ドイツ | 17 | 200 |
オーストラリア | 15 | 174 |
ロシア | 14 | 160 |
インド | 11 | 126 |
インドネシア | 11 | 125 |
シンガポール | 10 | 114 |
マレーシア | 10 | 115 |
タイ | 9 | 99 |
ベトナム | 7 | 79 |
フィリピン | 6 | 65 |
香港 | 5 | 63 |
台湾 | 4 | 47 |
中国 | 4 | 46 |
韓国 | 2 | 27 |
平均 | 11 | 132 |
注:世界平均の一人当たりCO2排出量は年間4.79t
出所:Worldometer、World Bank Data、英国環境・食料・農村地域省(Defra)、国土交通省、当社計算
一人当たり二酸化炭素排出量には発電分野、産業分野、輸送分野などあらゆる二酸化炭素排出量が含まれます。そこで、生活環境から排出される二酸化炭素排出量として、住宅・商業施設・公共サービス分野からの一人当たり二酸化炭素排出量に限定して削減効果を計算すると11日分(韓国)~495日分(インド)となります。
また、生活環境から排出される世界平均の一人当たり二酸化炭素排出量0.4トン(年間)と比較すると米国が231日分、カナダが220日分、イタリアが211日分などとフライト距離に比例する削減効果となります。近距離の東アジア各国でも香港が63日、台湾が47日など二酸化炭素排出量は大きな削減効果となります。
各国ごとに削減効果は大きな差がありますが、預入手荷物(20kg)を飛行機に搭載しないことだけで、これほど大きな二酸化炭素排出量削減効果があることは驚きではないでしょうか。私は旅行の際にすぐにでも実現可能なこれほどまでに大きな二酸化炭素排出量削減効果を他に知りません。
なお、国際線からの二酸化炭素排出量は各国の二酸化炭素排出量計算にカウントされず、世界の「バンカー燃料」のカテゴリーでカウントされます。従って、各国政府は国際線の二酸化炭素排出量を削減するインセンティブはほとんどありません。しかし、これは統計の分類方法の問題だけです。
繰り返しますが、世界の旅行者の81%、日本の旅行者の73%が「サステナブルな旅は自身にとって重要である」としています。サステナブル・トラベルの重要性を認識する旅行者は預入手荷物の削減を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、二酸化炭素排出量削減効果の詳細な計算式は以下のボタンをクリックするとエクセルにてご覧いただけます。
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