10年後には日本の地方への旅行はできなくなる?(4)
目次
1:鉄道駅のバリアフリー化と宿泊数の関係
2:旅行客を増やしてから、鉄道駅のバリアフリー化を進めるための施策
3:外国人旅行者が地方に旅行しない理由
4:外国人旅行者が地域鉄道を利用するプラス効果
1:鉄道駅のバリアフリー化と宿泊数の関係
鉄道駅の段差解消率と鉄道旅行の関係には、高い相関関係があります。鉄道駅の段差解消率が低い都道府県においては旅行先での鉄道利用の割合も低く、逆に鉄道駅の段差解消率が高いと鉄道利用の割合も高くなります。また、鉄道駅の段差解消率が低いと宿泊数シェア(観光目的旅行の宿泊客数の都道府県別割合、2019年)も低くなる関係にあります。
都道府県別駅の段差解消率と都道府県別宿泊シェア
出所:国土交通省
もちろん、これらの関係は「鶏と卵」の関係です。鉄道旅行者数が多くなると(=収益が上がる)、鉄道駅の段差解消への投資もでき、利便性が高まる事によって鉄道旅行者数が更に多くなるという好循環が期待できるでしょう。また、旅行者の宿泊数が増えると観光による消費金額も増え、鉄道駅の段差解消への投資もできるようになるでしょう。逆もまたしかりです。
従って、まずは鉄道旅行者数を多くするという施策が不可欠といえます。
なお、鉄道駅の段差解消率が低い場合において、宿泊数シェアから得た計算式(y=0.0712X-0.0086)から鉄道駅の段差解消率を1%改善すると、宿泊数シェアは0.0626%改善するという結果が導かれます。2019年の観光目的旅行の宿泊客数3.12億人に当てはめると19.5万人の宿泊数増加という効果になります。宿泊者1名あたりが28,889円消費したとすると(日本人の旅行平均予算53,444円を平均宿泊数1.85泊で割った値、2019年)、鉄道駅の段差解消率を1%改善した場合、56.5億円の経済効果となります。
2:旅行客を増やしてから、鉄道駅のバリアフリー化を進めるための施策
予算不足などの事情で鉄道駅の段差解消率が低いまま、鉄道旅行者数を多くするという施策はどのように行えばよいでしょうか。それには鉄道駅の段差があっても、旅行者が来てくれるような施策が必要です。日本人は人口減少に直面していることに加え、自家用車などで旅行ができるので、特に鉄道を利用してくれる訪日外国人向けの施策が必要となります。実際、2019年に「日本に滞在中に利用した交通手段」は1位が「鉄道・モノレール」69.9%、2位が「近郊バス」24.5%でした。鉄道とバスは外国人旅行者に対して、最も利用される交通機関なのです。
日本滞在中に利用した交通機関(複数回答、%)
出所:観光庁
訪日外国人の平均宿泊数は6.2泊なので、日本人の国内旅行平均の2.4倍です。当然、その分荷物は大きく重くなります。大きく重い荷物は鉄道駅に段差があると持ち運びが著しく困難となります。従って、荷物削減が不可欠です。
訪日外国人を地方に誘致する施策として、観光庁は訪日外国人旅行者が日本の宅配運送サービスを利用し、荷物を運搬せずに手ぶらで観光できる環境を定着させることを推進しています。
しかし当社としては、訪日外国人旅行者の利便性をより向上するためには、衣類をレンタルすることにより日本国内だけでなく、自宅から日本までの往復も「手ぶら」で来られる環境作りがより大事だと考えています。衣類を日本でレンタルすれば、運搬だけでなく、旅行前の準備、旅行後の洗濯・片づけの煩わしさからも解放されます。JTB調査の日本人向け調査によると「海外旅行の支度で苦になること」の1位は「荷物の準備」22%、「旅行から帰って来て面倒なこと」の1位は「荷物の片付け」48%です。旅行者は運搬だけに困っているわけではないのです。
また、飛行機の搭載荷物が減少することから、大幅なCO2削減効果が期待できます。20kgの受託手荷物を搭載しないことによるCO2削減効果(成田空港往復)は植林186本分に相当し、1人当たりCO2排出量換算では11日分、生活分野に限定すると179日分という圧倒的な削減効果となります。また、この効果は1日当たりのCO2削減効果として、太陽光パネル設置の21倍、電気自動車(再エネ充電)の58倍の効果です。
出所:ICAO, ECTA, 環境庁
こうしたサステナブルトラベルは、世界の旅行者が望んでいることでもあります。Booking.comの調査では世界の旅行者の75%が「より環境に優しい交通手段(タクシーやレンタカーよりも徒歩、自転車、公共交通機関など)を利用したい」と回答しています。また、世界の旅行者の41%が「地球環境への影響の軽減に貢献したい」とし、33%が「交通機関のCO2排出量を減らすための行動を取りたい」としています。
なお、訪日外国人旅行者が日本到着後に宅配運送サービスを利用して自分の荷物を配送することは、貨物トラックによる荷物運搬分だけCO2排出量は増加するため、サステナブルトラベルに逆行することとなります。
3:外国人旅行者が地方に旅行しない理由
外国人旅行者は地方にほとんど旅行をしていません。2019年において、外国人旅行者の訪問率が10%を超えた都道府県は大阪府43.4%、東京都42.4%、京都府32.8%、千葉県32.3%、奈良県14.3%と5都道府県しかありません。逆に、訪問率が1%を下回った都道府県は高知県、福井県、島根県など19都道府県もあります。このように外国人旅行者の訪問する都道府県はかなり偏りがあり、2019年の段階では地域鉄道や路線バス事業者にとって、ほとんどプラスの寄与がなかったことになります。
訪日外国人の都道府県別訪問率(2019年)
1 大阪府 43.41% 2 東京都 42.37% 3 京都府 32.83% 4 千葉県 32.29% 5 奈良県 14.30% 6 北海道 9.67% 7 愛知県 9.28% 8 福岡県 9.01% 9 沖縄県 7.53% 10 神奈川県 6.57% 11 山梨県 6.55% 12 兵庫県 6.38% 13 静岡県 5.22% 14 大分県 3.95% 15 岐阜県 3.59% 16 長野県 3.17% 17 広島県 3.03% 18 石川県 2.31% 19 熊本県 2.16% 20 長崎県 1.60% 21 富山県 1.34% 22 鹿児島県 1.20% 23 和歌山県 1.19% 24 香川県 1.16% 25 岡山県 1.11% 26 栃木県 1.10% 27 佐賀県 1.09% 28 宮城県 1.02% 29 青森県 0.83% 30 三重県 0.69% 31 埼玉県 0.64% 32 滋賀県 0.63% 33 宮崎県 0.60% 34 山口県 0.57% 35 新潟県 0.57% 36 茨城県 0.54% 37 鳥取県 0.48% 38 岩手県 0.47% 39 山形県 0.42% 40 群馬県 0.39% 41 秋田県 0.38% 42 愛媛県 0.37% 43 徳島県 0.30% 44 福島県 0.25% 45 島根県 0.24% 46 福井県 0.19% 47 高知県 0.19%
出所:観光庁
外国人旅行者の都道府県別訪問率と駅の段差解消率の関係をチャート化すると、駅の段差解消率が50%を超えると訪問率が一気に上昇する傾向にあります。ただ、駅の段差解消率が79%と高いにもかかわらず、訪問率が0.6%と著しく低い埼玉県のような都道府県もあります。これは埼玉県に観光資源が少ないことや、もしかすると外国人が埼玉県と東京都を混同している可能性もあります。
駅の段差解消率と訪日客の都道府県訪問率
出所:観光庁、国土交通省
また、外国人旅行者が地方に旅行に行かない理由は駅の段差だけでなく、地方の情報不足も挙げられます。
観光庁の2019年「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」では、「旅行中困ったこと(複数回答)」の1位は「ゴミ箱の少なさ」23.4%、2位が「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」17.0%、3位が「公共交通の利用」12.2%、4位が「多言語表示の少なさ・わかりにくさ(観光案内板・地図等)」11.1%、5位が「無料公衆無線LAN環境」11.0%でした。
旅行中に困ったこと(全体)
出所:観光庁
特に、「地方の公共交通機関の利用」で困った交通機関は1位「バス」51%、2位「新幹線以外の鉄道」50%と、3位の「新幹線」21%、4位の「タクシー」8%を大きく上回っています。この「新幹線以外の鉄道」、「バス」が経営的に深刻な状況にある地域鉄道事業者と乗合バスです。また、公共交通機関を利用して都市部・地方の両方を訪問した人が「便利」と回答した割合は、都市部が86%と高く、地方は8%と極端に低くなります。
「公共交通機関の利用」で困った公共交通機関
出所:観光庁
また、上記の「便利」と回答した人の割合で「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」では、都市部が87%だったのに対し地方は52%と低くなります。さらに、「便利」と回答した人の割合は「多言語表示」でも都市部の87%に対し地方は56%と低くなります。
便利と感じたこと(都市部・地方部両方訪問した人)
出所:観光庁
このように、外国人旅行者は公共交通の利用の仕方、コミュニケーション、多言語表示などソフト面でも地方観光に不安や不満を持ち、そのために地方観光を敬遠していることがよく理解できます。
従って、当社では衣類レンタルに加え、旅行前コンシェルジュサービスを行うことで、ソフト面でも外国人旅行者の地方観光を促進したいと考えています。
4:外国人旅行者が地域鉄道を利用するプラス効果
2019年の訪日外国人旅行者数は3,188万人でした。地域鉄道事業者95社の年間利用者は4億7,908万人(2019年)であったため、訪日外国人旅行者が日本のどこかの地域鉄道に1往復乗車しただけで、13%の地域鉄道利用者数を押し上げる効果をもたらす計算になります。近隣の地域鉄道事業者が連携することで、訪日外国人旅行者が各地域鉄道に複数回乗車しやすくなる機会を増やせれば、大きな需要押上げ効果となることも十分に期待できます。
このように、訪日外国人旅行者を地域鉄道、乗合バスの需要回復の起爆剤とする施策が必要であり、そのために当社サービスが寄与できればこれほどうれしいことはありません。