輸送手段毎のCO2排出量比較。航空貨物による貿易は例外中の例外
目次
1:輸送手段毎の重量あたりCO2排出量
2:輸送手段毎の輸出単価とコスト
3:移動手段毎の旅客あたりCO2排出量
4:まとめ
1:輸送手段毎の重量あたりCO2排出量
これまで約2か月間にわたって、「サステナブル・トラベル」について多くのデータを用いて、9本の投稿を行いました。今回で10本目の投稿になるため、「サステナブル・トラベル」についての投稿を一旦終えることとします。最後の投稿は各交通手段による貨物と旅客当たりのCO2排出量のデータです。これらのデータを見ることによって、多くの方に輸送手段や交通手段について考えて頂きたいと思います。
「サステナブル・トラベル」シリーズでは飛行機の受託手荷物によるCO2排出量を、ECTA(EUROPEAN CHEMICAL TRANSPORT ASSOCIATION)の「Guidelines for Measuring and Managing CO2 Emission from Freight Transport Operations 」記載のデータを使用して計算・説明してきました。計算に使用した飛行機による貨物輸送量(トンキロ)のCO2排出原単位は、0.602kgCO2/tkmです。ECTAでは他の輸送手段のデータも掲載されているので、今回、チャート化してみました。
出所:ECTA
ECTAのデータによれば、航空貨物のCO2排出原単位はトラックなど道路輸送の9.7倍、鉄道輸送の27.4倍です。いかに、航空貨物のCO2排出原単位が大きいか分かります。旅行の際に重い受託手荷物を飛行機に持ち込むことは、気候変動問題に対して大変罪深いことなのです。
2:輸送手段毎の輸出単価とコスト
世界最大の経済大国であり最大の貿易金額を誇る米国の2021年データ(Bureau of Transportation Statistics)を用いて各輸送手段の貿易単価(輸出入単価)を算出しました。航空貨物の貿易単価は131,319ドル/ショートトン(144,713ドル/トン)でした。130円/ドルで換算すると1,707万円/ショートトン(1,881万円/トン)です。高い貿易単価から判断すると、精密機械など超高額品を貿易する際にしか航空貨物を利用しないことが分かります。
出所:Bureau of Transportation Statistics
このため、貿易金額ベースでは29.6%を占める航空貨物も重量ベースでは0.4%にしかなりません。重量ベースでは航空貨物による貿易は例外中の例外であると言えるでしょう。
出所:Bureau of Transportation Statistics
出所:Bureau of Transportation Statistics
また、航空貨物のコストは極めて高額です。「The Geography of Transport Systems(2020年発行)」によれば、航空貨物運賃は137.5セント/トン-マイルと、他の輸送手段による平均コスト6.95セントに対して19.8倍となります。航空貨物のコストは極めて高いため、超高額品の貿易しかできないのです。
出所:The Geography of Transport Systems
米国における航空貨物の貿易単価を多くの旅客の受託手荷物の重量である20kgに換算すると2,894ドル(37.6万円)となります。果たして、旅行者の受託手荷物に2,894ドル(37.6万円)の価値はあるのでしょうか。
3:移動手段毎の旅客あたりCO2排出量
貨物輸送のデータ確認に続き、各移動手段における旅客あたりのCO2排出量も確認しましょう。ここでは国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)とOur World in Dataのデータを使用しました。Our World in Dataの元データは英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省 (UK Department for Business, Energy & Industrial Strategy)です。
IEAでは各交通機関の旅客あたりCO2排出量(2019年)を原単位の幅を発表しています。中央値で比較すると最も少ないCO2排出量交通機関は鉄道62g/km、最大のCO2排出量は大型車(Large cars)の192g/kmでした。航空機の中央値は140g/kmと、大型車の192g/kmと中小型車(Small and medium cars)の117gと中間程度です。
出所:IEA
一方、Our World in Dataではより詳細なデータ(2018年)を発表しています。最小のCO2排出量は国際鉄道(Eurostar)の6g/km、最大は飛行機の長距離(ファーストクラス)の599g/kmでした。なお、ガソリン燃料大型車のCO2排出量は283g/km、ディーゼル燃料の大型車は209g/km、飛行機の長距離(エコノミークラス)では150g/km、短距離(エコノミークラス)では156g/kmでした。IEAのデータでも大型車は飛行機を上回るCO2排出量であることは興味深いデータです。飛行機はファーストクラスに乗り、空港から市内にはリムジンカーで移動するという旅行が、地球環境に対し最悪の旅行スタイルであることが分かります。
The carbon footprint of travel per kilometer, 2018
GHG emissions (gCO2e/km) Long-haul flight (first class) 599 Long-haul flight (business class) 434 Large car (petrol) 283 Domestic flight 255 Long-haul flight (economy+) 240 Short-haul flight (business class) 234 Black cab (taxi) 212 Large car (diesel) 209 Medium car (petrol) 192 Medium car (diesel) 171 Short-haul flight (economy) 156 Small car (petrol) 154 Taxi 150 Long-haul flight (economy) 150 Small car (diesel) 142 Motorcycle (large) 135 Large car (hybrid) 132 Ferry (car passenger) 130 Medium car (hybrid) 109 Small car (hybrid) 105 Bus 105 Motorcycle (medium) 103 Petrol car, 2 passengers 96 Diesel car, 2 passengers 85 Motorcycle (small) 84 Large car (plug-in hybrid electric) 77 Medium car (plug-in hybrid electric) 71 Large electric vehicle (UK electricity) 67 Medium electric vehicle (UK electricity) 53 Petrol car, 4 passengers 48 Small electric vehicle (UK electricity) 46 Diesel car, 4 passengers 43 National rail 41 Light rail and tram 35 London Underground 31 Small car (plug-in hybrid electric) 29 Coach 28 Ferry (foot passenger) 19 Eurostar (international rail) 6
出所:Our World in Data
4:まとめ
以上、1-3のデータを読んで皆さんは何を感じたでしょうか。気候変動に対しても輸送コストに対しても、旅行の際に受託手荷物を飛行機に搭載することは極めて不合理であることが分かります。「それでも受託手荷物は必要ですか」。