LCCの預入手荷物料金は「地球が旅行者に科す罰金」か?
目次
1:LCC(Low-cost carrier)の預入手荷物料金
2:重い預入手荷物が気候変動に与える影響
3:FSA(フルサービスエアライン)はLCCに追随するか?
4:SAF(Sustainable Aviation Fuel)の課題
1:LCC(Low-cost carrier)の預入手荷物料金
LCC(Low-cost carrier)は必要最低限のサービスのみを提供することで低い運航費用を実現し、FSA(フルサービスエアライン)に比べて割安な運賃で航空輸送サービスを提供してきました。預入手荷物料金が有料であることでも有名です。
日系、アジア系のLCCの場合、20kgの預入手荷物の日本までの片道料金は3,200円~3,700円となっています(航空券予約時の場合)。LCCにとって、余分な預入手荷物を運ぶことは燃料費増大になりますから、その分の費用との認識でしょう。
20kgの受託荷物料金(日本までの片道料金、円)
航空会社 | ピーチ | タイガーエア台湾 | 香港エクスプレス | スクート |
出発国 | 台湾 | 台湾 | 香港 | シンガポール |
予約時 | 3,400 | 3,700 | 3,200 | 3,520 |
航空券の発券後に購入の場合 | 3,940 | 4,600 | 4,000 | 4,320 |
しかし、重い預入手荷物を航空機が運ぶことは燃料を余分に消費するだけでなく、二酸化炭素を更に排出して気候変動に悪影響を与えています。従って預入手荷物料金は、重い荷物と共に飛行機に搭乗する旅行者への「地球からの罰金」という捉え方もできるかもしれません。
2:重い預入手荷物が気候変動に与える影響
11月30日に投稿した「荷物を削減し、サステナブル・トラベルを実現」でコメントしたように、預入手荷物(20kg)による二酸化炭素排出量は多大です。旅客一人当たりのニ酸化炭素排出量に対し、預入手荷物(20kg)の二酸化炭素排出量は、飛行距離によって異なりますが15%~35%程度となります。
主要都市からの成田空港からの距離と二酸化炭素排出量
成田空港からの距離(往復、km) | CO2排出量(kg) | ||
旅客1人 | 預入手荷物(20kg) | ||
米国(ワシントン) | 21,684 | 785 | 261 |
カナダ(トロント) | 20,594 | 749 | 248 |
イタリア(ローマ) | 19,776 | 781 | 238 |
フランス(パリ) | 19,416 | 815 | 234 |
イギリス(ロンドン) | 19,170 | 784 | 231 |
ドイツ(フランクフルト) | 18,730 | 675 | 226 |
オーストラリア(メルボルン) | 16,344 | 875 | 197 |
ロシア(モスクワ) | 14,990 | 685 | 180 |
インド(デリー) | 11,812 | 693 | 142 |
インドネシア(ジャカルタ) | 11,668 | 620 | 140 |
シンガポール(シンガポール) | 10,708 | 588 | 129 |
マレーシア(クアラルンプール) | 10,812 | 550 | 130 |
タイ(バンコク) | 9,292 | 538 | 112 |
ベトナム(ハノイ) | 7,436 | 429 | 90 |
フィリピン(マニラ) | 6,096 | 388 | 73 |
香港(香港) | 5,922 | 417 | 71 |
台湾(台北) | 4,362 | 313 | 53 |
中国(北京) | 4,268 | 338 | 51 |
韓国(ソウル) | 2,510 | 201 | 30 |
平均 | 12,399 | 591 | 149 |
注:ローマ、ロンドン、モスクワの旅客1人当たりの排出量は羽田空港からのデータ、旅客1人当たりの排出量はエコノミークラスのデータ
出所:ICAO、ECTA、英国環境・食料・農村地域省(Defra)、国土交通省
また、預入手荷物(20kg)を飛行機に搭載しないことで得られる二酸化炭素排出量削減効果を、一人当たりの日常生活における二酸化炭素排出量と比較してみました。日本までの飛行距離や、各国においての生活スタイルの違いによる一人当たりニ酸化炭素排出量に差がある為、ばらつきは大きいですが、1日~27日分の削減効果となります。
年間一人当たりCO2排出量(t)
CO2排出量全体 | 日常生活に関わるCO2排出量 | |
カナダ | 18.6 | 2.7 |
オーストラリア | 17.1 | 0.6 |
アメリカ合衆国 | 15.5 | 1.7 |
韓国 | 11.9 | 1.0 |
台湾 | 11.7 | 1.4 |
ロシア | 11.4 | 1.0 |
ドイツ | 9.4 | 1.7 |
マレーシア | 8.7 | 0.2 |
シンガポール | 8.6 | 0.1 |
中国 | 7.4 | 0.4 |
香港 | 6.5 | 0.2 |
イタリア | 5.9 | 1.1 |
イギリス | 5.6 | 1.1 |
フランス | 5.1 | 1.2 |
タイ | 3.9 | 0.1 |
ベトナム | 2.2 | 0.2 |
インドネシア | 2.0 | 0.1 |
インド | 1.9 | 0.1 |
フィリピン | 1.2 | 0.1 |
平均 | 8.1 | 0.8 |
出所:Worldometer、World Bank Data
預入手荷物(20kg)を搭載しない場合の一人当たりCO2排出量に対する削減効果(往復)
CO2排出量全体に対する削減効果(日数) | 日常生活に関わるCO2排出量に対する削減効果(日数) | |
インド | 27 | 495 |
インドネシア | 25 | 494 |
フィリピン | 22 | 316 |
フランス | 17 | 71 |
イギリス | 15 | 80 |
ベトナム | 15 | 187 |
イタリア | 15 | 82 |
タイ | 10 | 372 |
ドイツ | 9 | 49 |
アメリカ合衆国 | 6 | 56 |
ロシア | 6 | 63 |
マレーシア | 6 | 290 |
シンガポール | 6 | 415 |
カナダ | 5 | 34 |
オーストラリア | 4 | 113 |
香港 | 4 | 119 |
中国 | 3 | 47 |
台湾 | 2 | 14 |
韓国 | 1 | 12 |
平均 | 10 | 174 |
出所:Worldometer、World Bank Data、英国環境・食料・農村地域省(Defra)、国土交通省、当社計算
3:FSA(フルサービスエアライン)はLCCに追随するか?
FSA(FSC:Full Service Carrierともいう)は、LCCと違い手厚いサービスを提供する前提での料金設定をしている為、多くのFSAでは20kgまでの預入手荷物については料金を徴収していません。今後、FSAはLCCと同様に、預入手荷物を有料化するでしょうか。
実は、欧州など一部のFSAでは預入手荷物の有料化が始まっています。British Airwaysでは「Economy Basic」というクラスで実質的に預入手荷物の有料化を行っています。預入手荷物が無料である「Economy Plus」と比較すると、ロンドンーパリ間で14ポンド(166円/ポンド換算で2,324円、2023年1月25日の最安値運賃)、ロンドンー東京間で35ポンド(166円/ポンド換算で5,810円、2023年1月25日の最安値運賃)の差があります。この差は実質的な預入手荷物の有料化と言っていいでしょう。
British Airwaysの航空運賃
Departure | LHR (London) | LHR (London) |
Arrival | CDG (Paris) | HND (Tokyo) |
Class | Economy Basic | Economy Basic |
Price | £54 | £493 |
Note | Hand baggage only | Hand baggage only |
Class | Economy Plus | Economy Standard |
Price | £68 | £528 |
Note | 1 x 23kg / 1 x 51lb checked baggage allowance | 2 x 23kg / 2 x 51lb checked baggage allowance |
Price difference (Plus-Basic) | £14 | £35 |
British Airways以外の欧州系の航空会社も同様の料金体系を導入しており、今後世界的に広まるかもしれません。
4:SAF(Sustainable Aviation Fuel)の課題
航空業界ではジェット燃料か航空ガソリンに替えて、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)を使用することにより脱炭素化を目指しています。世界経済フォーラムにおいて、エアライン、SAF 製造事業者、航空利用者等が2030 年にSAFの割合を 10%とすることを目標とする「2030 Ambition Statement」に署名(2021 年 9月)しました。
もちろん、技術革新によりいずれは安いSAFが開発され、飛行機からの地球温暖化ガス排出量はゼロになることを当社も期待していますが、それが実現されるまでに地球に与える負荷はどれほどでしょう。
多くの人々にとって「旅行」とは「楽しい非日常」です。文明のさまざまな進化による現代生活において、残念ながら人間は、普通に暮らしているだけで地球に負担をかける存在となっています。しかし、いくらサステナビリティ(人間・社会・地球環境の持続可能な発展)やSDGs(持続可能な開発目標)の意識が高まる昨今でも「では飛行機に乗って旅する事をやめよう」、「では海外旅行は一生しないでおこう」と考える人はごく少数でしょう。また、輸入輸出など国をまたいだ飛行機による物流をいきなりゼロに、というのも現実的ではありません。
「海外旅行はしたいけど、飛行機って環境へのマイナス影響が大きいらしい」そんな認識を持たれている方は、せめて「自分の体重」だけで飛行機に乗り込みませんか?「楽しい非日常」に向かう際に「日常の服」などを置いてくるだけで、「地球にかける迷惑」は少し減らせるのです。
重いトランクの為に追加料金を航空会社に支払い、環境に更なる悪影響を与える旅をするより、「身軽に搭乗して必要なものは旅先でレンタル」というのは如何でしょうか。重い預入手荷物を手放すことは、旅行者が楽しみを諦めることなく、且つ今すぐ地球環境に貢献することに繋がると当社では考えています。世界中の旅行愛好者が身軽に旅をすれば、「地球にかける迷惑」は確実に軽減できるでしょう。是非、当社のレンタルサービス利用をご検討ください。