「訪日観光客のレンタカー事故多発」報道は本当か
目次
1:訪日観光客のレンタカー事故は多発の真偽
2:日本人と外国人の事故率の比較
3:訪日外国人のレンタカー観光は旅行業界の人手不足を加速させる
1:訪日観光客のレンタカー事故は多発の真偽
2023年12月3日のテレビ朝日「サンデーLIVE!!」で「訪日観光客のレンタカー事故多発」と放送され、その記事がYahoo!ニュースに『廃業に追い込まれる業者も…訪日観光客のレンタカー事故多発「止まれ」標識が原因に?』というタイトルで掲載されました。このニュースに対するコメントは1,700件を超え、専門家も含め、訪日観光客のレンタカー利用に対する否定的なコメントが大多数でした。しかし、事故数などのデータは一切報道されませんでした。そこで、本当に訪日観光客のレンタカー事故は多発しているのか調べてみました。
内閣府の「令和元年交通安全白書」にレンタカーを利用する訪日外国人に関するデータが掲載されていました。「交通安全白書」によるとレンタカーを利用した訪日外国人は2012年の26.7万人から2017年には140.6万人へと増加しました。これは5.3倍の増加です。同時期に、国際免許または外国免許を持つ人々のレンタカー事故件数も増加しています。2012年の36件から、2017年には188件へと増えています。これは5.2倍の増加です。しかし、事故率は0.0135%から0.0134%へとほぼ変わらない推移を見せています。
出所:内閣府「令和元年交通安全白書」
「令和元年交通安全白書」に掲載されていたデータから読み取れることは、事故率が2012年以降の6年間でほぼ横ばい傾向(実際は緩やかな下落傾向)にあるため、2023年に事故率が急激に上昇していることがない限り、「訪日観光客のレンタカー事故多発」というタイトルは「コロナ禍後に訪日観光客が回復し、そのため事故が増加しただけ」と言えるのではないでしょうか。
2:日本人と外国人の事故率の比較
一方で、気になるデータもあります。交通事故総合分析センターの「交通事故分析レポートNo.132」によると「観光・娯楽目的のレンタカーの相対事故率」は日本人の2.5に対して、訪日外国人は13.8と5.5倍と極めて高いようです。相対事故率とは「道路利用頻度を考慮して事故リスクを論じる際の指標」と説明されています。
出所:交通事故総合分析センター「交通事故分析レポートNo.132」
「交通事故分析レポートNo.132」の元データである「外国人及び余暇活動中の交通事故に関する研究」ではさらに詳しい相対事故率が掲載されています。日本と同じ左側通行国の訪日外国人の相対事故率は9.0、日本と逆の右側通行国の相対事故率は12.9です。多くの人の想像通り、日本と同じ交通方法の国のほうが比較的相対事故率は低いようです。
こうしたデータからは「訪日外国人のレンタカー運転は相対的に日本人よりも危険である」と言えそうです。
3:訪日外国人のレンタカー観光は旅行業界の人手不足を加速させる
訪日観光客がレンタカーを利用することは旅行業界にとって望ましいのでしょうか。コロナ禍後に旅行客の急回復により加速した宿泊業などの人手不足について、レンタカー利用がひっ迫若しくは、緩和のどちらに寄与しているかを分析します。
まず、訪日観光客のレンタカー利用は極僅かです。コロナ禍前の2019年において全体の3.7%しかレンタカーを利用していません。
出所:国土交通省「FF-Data(訪日外国人流動データ) の概要と利用例」
また、訪日観光客のレンタカー利用割合が高くなるほど、日本の滞在日数が短くなる(相関係数はマイナス0.53)傾向であることが分かります。滞在日数が短くなるということは毎日宿泊施設を移動するような慌ただしい旅行が多くなり、1ヶ所の宿泊施設に連泊する可能性が低くなると推定されます。
出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査2019年年間値(確報)」
一方、レンタカーと逆に、鉄道の利用割合が高くなると滞在日数が長くなる傾向が顕著(相関係数は0.85)です。このように、レンタカーと鉄道の利用動向で滞在日数が左右されるのはコスト面から説明可能です。レンタカー料金は日割り計算がほとんどです。従って、移動せずに同じ宿泊施設に長期間滞在し、車を運転しなくてもコストはかかります。一方、鉄道の場合は移動しなければコストはかかりません。こうしたことから、訪日観光客のレンタカー利用割合が高まると滞在期間は短くなり、鉄道の利用割合が高まると滞在期間は長くなる傾向となります。
出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査2019年年間値(確報)」
滞在期間の傾向から、連泊の可能性を高めるのは鉄道旅行、連泊の可能性を低くするのはレンタカー旅行であることが分かります。連泊が増えるとチェックイン・アウトなどフロント業務の軽減や清掃作業の軽減など相対的に人手不足緩和に繋がります。このため、多くの宿泊施設にとって連泊する旅行者を優遇する宿泊プランを提供することもあります。
結論として、レンタカー利用者の事故の危険性と宿泊業の人手不足問題の双方に対処するため、観光政策として鉄道旅行へのシフトが求められます。